2017年2月10日金曜日

俳句集団【itak】第29回句会評③ (橋本喜夫)


俳句集団【itak】第29回句会評③

  2017年1月14日
 
橋本喜夫(雪華、銀化)
 
 
 
 便鉢の水まで寒九なりにけり      青山酔鳴

「寒九の水」 厳しく清新な感覚を、なんと便鉢の水にしてしまった。その諧謔を良しとする私は頂いたが、好みもあろうし、見解が分かれる処だろう。少なくてもこの句は従来の旧守派の季語の本意からは大きくずれていることは確かだ。逆に言うと、単なる季語をなぞった句ではない、ということでもある。

 
 
 湯冷めして糸屑取りをしてをりぬ    西村榮一
 
私は句会のときも言ったが、湯から上がってまだ十分に服を着ていないときにくだらないこと(糸屑とり)をはじめてしまい、やめられなくなってしまっている姿をユーモラスに描いていると思った。おかしくもシュールな景でもあり、面白い句である。シュールさを出すために「湯冷めして」 と中七以下を順接につなげて切れを入れていないのも、テクニックである。
 
 
 レシートの裏に初夢広がりぬ      村上海斗

レシートの裏、レシートのメモ、レシートを栞にする などなどレシートを小道具にする句はたしかにちょこちょこある。ただしこの句はレシートの裏に書かれていることから初夢が広がる と表現している。ここに謎があって面白いと思った。酔鳴さんはレシートの裏にポイントとか、景品のあたる何かが書いてある とか言っていた。なるほどそんな裏があったか と私は思ったが、この句はもっと抽象的な夢なのではとも思う。作者がこれからも俳句に夢をもって臨んで欲しいと思う。
 
 
 四合瓶空ける間もなく去年今年    大原智也

四合瓶なので720ml瓶。日本酒だろうか、ウイスキーだろうか。いずれにしろ、年末年始起きて酒でも飲んで正月を迎えようかと思ったが、すべて飲み切らぬ前に眠ってしまい、目が覚めたら年が明けていて新年(元旦)であった。という詠みであろう。「去年今年」は夜中十二時のカウントダウンではなく、31日の夜から翌朝の夜が明けるまでのある程度スパンのある季語なので、おそらくそんな読みで正解なのだと思う。去年今年は「あっけなく年が過ぎてゆく」、「去年から今年になってもあまり変化がない」などの心理が季語の本意と考えるから、そういう意味ではこの難しい季語もうまく嵌っていると思う。


 見えぬ眼に雪と告ぐ夜の別れかな  五十嵐秀彦

秀彦氏には珍しく?ドラマ性のある作りになっている。目が見えない状態の人がいる。この場合は盲人がいるというよりも、重篤な状態あるいは今際の状態でもう目が見えない状態のひとだと思う。そのひとに 「今は外で雪が降っているよ」と耳元で囁いたのであろう。告げられた人は目を濡らしながら、ゆっくりとうなずいたかもしれない。そんな雪の夜の別れを詠んでいる。



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