2013年8月28日水曜日

公開句会・東京マッハvol.8 「札幌マッハ 北北東に越境せよ」



俳句集団【itak】事務局です。俳句イベントのお知らせです。


人気の俳句イベント、公開句会・東京マッハvol.8 「札幌マッハ 北北東に越境せよ」が9/16(月・祝)に札幌市内で開催されます。
出演者の俳句に観客も人気投票して、その句評などを侃侃諤諤と舞台上で交わす、ライブ感あふれる句会です。
 
三連休の最終日、お時間のある方は是非お越しください(その二日前の9/14、俳句集団【itak】の第9回イベントにもきてくださいね!)


  
以下、生活支援型文化施設コンカリーニョの記事を転載いたします。
 
***************************************
 
9/16

公開句会・東京マッハvol.8
「札幌マッハ 北北東に越境せよ」

チケットは毎回即日完売の人気句会ライブ「東京マッハ」が越境し、北海道へ!
出演者の俳句を人気投票し、作者名をふせたまま批評しあう公開句会です。
サトアキキッチンによる出店もあり。飲みながら、食べながら、俳句のライブをお楽しみください!


【日時】9月16日(月祝)14:00〜17:00 ※開場は13:00
 ※お客様にも投票していただきます。開場と同時に入場いただくとより楽しめます。
 ※下敷きになるもの、筆記用具、歳時記のご持参をおススメします。


【会場】生活支援型文化施設コンカリーニョ

【料金】2,500円(飲食別)
  ※チケットはローソンチケット(Lコード:15973)、コンカリーニョ、ターミナルプラザことにPATOS、あけぼのアート&コミュニティセンター、大丸藤井プレイガイドで販売中。
 
【出演者】柴崎友香長嶋有米光一成堀本裕樹千野帽子(司会)

★札幌マッハ関連リンク集
◎司会の千野帽子さんによる
映画「風立ちぬ」レヴュー
週刊俳句に掲載の昨年12月に行われた「京都マッハ」レポート
柴崎友香さんてこんな人


【主催・問い合わせ】コンカリーニョ
             西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1FJR琴似駅直結)
         TEL.011-615-4859 sapporomach@yahoo.co.jp
         http://www.concarino.or.jp/2020/12/sapporomach/






大きな地図で見る


2013年8月24日土曜日

五十嵐秀彦第一句集『無量』から ――寺山ワールドという通過点――


五十嵐秀彦第一句集『無量』から

――寺山ワールドという通過点――
                      平 倫子

 


手に馴染みやすいフランス装の本である。今年1月のitakの会で、山口亜希子さんにお会いして、魅力的なお人柄と豊富な話題に引き込まれたのだったが、その方が書肆アルスの編集者で、五十嵐さんの句集の発行人でいらした。

 

五十嵐さんにはじめてお会いしたのは1999(平成11)年9月、北海道の「藍生はまなす句会」に旭川から参加されたときだった。それ以来「藍生」と「はまなす句会」と、そして最近は俳句集団【itak】でご一緒させていただいている。

 

『無量』を一読したとき、つぎの三句が立ち上がってきた(括弧内はページ)。

 

  かたくりや希望は別の名で咲きぬ(25

  自転車に青空積んで修司の忌(27

  五月雨や父なきときを母とゐて(104)

 

そして繰り返し読むうちに、これらの三句がわたしの中で鍵句になって定着した。以下はそのことをふまえた試し読みである。

 

1.「自転車に青空積んで修司の忌」、あるいは寺山ワールド

 

この句は2002(平成14)年5月に「はまなす句会」に投句され高得点句だった。五十嵐さんが寺山修司に強い関心を持っておられるのを知ったのもこのときである。同年「藍生」8月号の<選評と観賞>欄で黒田主宰が、若い世代が寺山の世界を受け継いでゆく、と注目しておられた句であった。

この年北海道文学館では、寺山修司の特別企画展「テラヤマ・ワールド きらめく闇の宇宙」があり、4月20日の山口昌男と九條今日子のトーク・セッションにはじまって、夏まで文芸セミナーや映像作品鑑賞のイベントが続いていた。

その後五十嵐さんの寺山研究はどんどん進み、深められ、2003年には「寺山修司論」で現代俳句評論賞を受賞され、いまや寺山修司研究のエキスパートとして知られている。

 

『無量』を読んで、いままで句会や会誌「藍生」で目にしていた同じ句が、句集のなかでは異なる色や光を放っていることを知った。五十嵐さんが寺山の土や空を共有しておられることが確認出来たのも句集になってこそであった。

 

  自転車に青空積んで修司の忌

  街角を曲がる角度で冬に入る

  露寒やどこにも行かぬ日の鞄

  古里の母音の空の花芒

  下駄なんか履いてゐる人ほととぎす

  その細き身をその旗として夏野

  大寒や人は棺を空に置く

  悼一句寒の日の透くセルロイド

  沫雪やわれらと呼ぶに遅すぎて

 

2.「五月雨や父なきときを母とゐて」、あるいは喪の仕事

 

五十嵐さんはいつか「自分はさびしがり屋だ」といわれたことがある。そこが五十嵐さんの優しさを裏付けていると思う。読み返すほどに、お父上の晩年に寄り添って多くの句を詠み、また喪の仕事(平成216月父上を亡くされた)としての悼句をあのようにたくさん詠まれたことに、五十嵐さんの優しさがにじみ出ている。寺山の若書きの句「林檎の木ゆさぶりやまず逢いたきとき」や「父と呼びたき番人が棲む林檎園」の肉親への心情にもつながるのではないだろうか。

 

  こときれてゆく夕凪のごときもの

    肉塊の淋しき西日射す柩

    五月雨や父なきときを母とゐて

    魂ひとつ青野に還す血曼荼羅

  冬の日のなほあたたかな時を病む

  新涼のふたり分け合ふものすこし

  緘黙の父に行き合ふ虫の闇

  幻影となり父の声雪の声

  咳こぼすひとりの刻をひろびろと

  窓ぬぐふ人惜しみ年惜しむとき

  父は去り母は冬日の遠汽笛

  生国は雪生むところ海と山

  母老いて姉また老ゆるつつじかな

 

3.「かたくりや希望は別の名で咲きぬ」、
       あるいは「意味か?音か?」

 

 ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に、公爵夫人がアリスにむかって「意味に気をくばりなさい。そうすれば音はおのずから決まってくるのです」(第9章)というところがある。これは英語の格言 ”Take care of the pence, and the pounds will take care of themselves.” (日本では「一円を笑う者は一円に泣く」で知られる)を、キャロルがpの一字をもじってsensesounds にした言葉遊びである。キャロルの意図は、事がらを表現するための方便として、センス(意味・内容)を上位に、サウンド(音のひびき)を下位に見立てているのでる。

 

  かたくりや希望は別の名で咲きぬ

  不可知なる言葉すずらんなどと呼ぶ

  

この二句を見つけたとき、五十嵐さんは若い頃詩を書いておられた、と伺ったのを思い出した。そして五十嵐さんは、まさにキャロルの代弁者だと思って嬉しくなった。「かたくり」や「すずらん」という音のひびきが、それぞれの花の意味・内容を表していない、つまり「名が体をあらわしていない、あるいは逆に、体が名にそぐわない」というのである。その言い分が愉快だった。

黒田主宰は『無量』の序文の冒頭で「五十嵐秀彦。いい名前だと思う」と書いておられる。とても合点がいく。

 

このようにみてくると、『無量』の大半の句はお父上への哀悼の思いと深く結びついていることに気づいた。生国、先祖、信仰、死後の世界、へとひろがって、その延長線上に五十嵐さんの新しい折口信夫研究や中上健次研究があると思った。



☆平 倫子(たいら・くみこ 俳句集団【itak】幹事 英文学者)




2013年8月22日木曜日

インタビュー『札幌戦後文化史を見てきた男』を観て ~高畠葉子~

 
 
 
2013年7月28日
 
 
インタビュー『札幌戦後文化史を見てきた男』 を観て 
 
 
                        ~高畠葉子~
 
 
主催
 
トルタバトンテン
 
出演
 
インタビュイー:中森敏夫氏 
インタビュアー:山田 航氏
 
 


インタビュイーの中森敏夫氏は会場であるギャラリー「テンポラリースペース」のオーナーである。
そしてインタビュアーは【itak】幹事でもある歌人の山田航氏。


山田航氏はこのテンポラリースペースにてこれまで幾度か自身の作品のイベントを開催し中森敏夫氏と交流があり中森氏の豊富な話題に魅せられての今回の企画となったとのこと。
インタビューは中森氏の少年時代から始まる。中森氏は札幌市の中心部駅前通生まれで「シティーボーイ」。この頃の思い出が興味深い。その中で今回のインタビューの中でも印象的であった話を挙げてみる。札幌時計台の話である。今では高層ビルに見下ろされているがゆえ「日本三大がっかり」とまで呼ばれているこの時計台を最初に見下ろしたビルが、札幌オリンピック前年に完成した札幌市役所本庁舎であるとのこと。かつては創成小学校があり、現在中島公園に移転された豊平館が並びそれはそれは美しかったという。「がっかり」と呼ばれる原因の最初が札幌市役所とは・・・。この札幌オリンピック前夜からバブル期の話はタイトルにある「札幌文化史」を語る上の骨格であるように思える。


中森氏は早稲田大学を経て家業である老舗花器店「中森花器店」を継がれた。札幌駅前から大通開発の中でビル化(パック化)され職と住が分断され人が住まない所となった。この事を中森氏は「生業(なりわい)」という言葉を引かれ暮らし・日常と職について語られた。ここにも中森氏の見てきた「札幌文化史」の骨格が見えてくる。


中森花器店は駅前通から円山へと移転され、ここから中森氏の大いなる活動の話に入ってゆく。今では高級住宅街と知られている円山であるがかつて「川の氾濫」があった事を知っているだろうか。当時「見えない川の氾濫」と呼ばれたという。つまり暗渠とされた円山の界川の氾濫である。この経験から中森氏は「川の始まりと終わり」というキーワードで話を進めた。


川の源を見、出口を見たい。
という中森氏の思いは古地図を元に暗渠を歩く「界川遊行」、石狩川河口での舞踏「大野一雄 みちゆき」(石狩の鼻曲がり)・詩人吉増剛造との交流と語られてゆく。また、花器店の主らしく庭の木々を「愛樹」と語るなど氏の語り口は滑らかだ。


この間会場であるテンポラリースペースには静かにバッハのピアノ曲が流れていた。つまりはBGM。耳の匂い消しと中森氏は語った。そしてアートは目の匂い消しだと氏は言う。
インタビュアーの山田航氏の札幌文化への期待は?の問いかけに中森氏はきっぱりと「自分でやる」と答えた。


インタビューの中で「カルチヴェートは足元を耕すこと」と語った中森氏。彼もまた耕す人なのだと思った。


さて我々の活動も文化である。そしてこの北の大地でイタック(アイヌ語で言葉の意)を紡ぐ者達である。この活動は生れたばかりであるがしっかりと足元を耕し、この北海道をとうとうと流れる川となってゆきたいと心新たに思うのである。
 
まぁ。堅苦しい事はさておき楽しみながら続けようではないか!




☆高畠葉子 (たかばたけ・ようこ 俳句集団【itak】幹事 弦同人) 


 

2013年8月20日火曜日

俳句集団【itak】第9回 研究発表会パネラー紹介


研究発表会


石狩の句会・尚古社の歴史
     ~伝説の俳人・井上伝蔵

 パネラー 札幌琴似工業高校文芸部

・ 井上伝蔵の足跡を追って 尚古社に眠る井上伝蔵の俳句研究
・ 俳句結社 尚古社に眠る俳句研究
・ 子規に消された俳人研究
・ 道内・本校の高校文芸部の活動紹介・句会紹介

 
******************************************************************************
札幌琴似工業高校文芸部

俳句甲子園札幌大会をご縁に、俳句集団【itak】に参加してくれるようになった数少ない高校生たちが北海道立札幌琴似工業高校文芸部のみなさんです。
理系・男子生徒多数のイメージから、文芸部という部活が活発に行われているのは意外でありましたが、俳句に限らず短歌・詩・小説・論考など、学業の傍ら広く取り組んでいる様子が見えてまいりました。折々の吟行やテスト明けなどの半休を利用しての校内句会、俳句甲子園や高文連などの学外での取り組みなど、その熱心さがよくわかります。

俳句集団【itak】の活動も2年目に入り、これまでもこれからも様々な企画を取りそろえたいと考えておりますが、そんな中で句座を共にしてくれた若者たちにも、是非とも普段の研究成果を発表してもらえたらと、今回の企画と相成りました。
標記の研究内容は大人でもなかなか触れるひとのいない部分で、放課後・休日に部員一同で自転車でのフィールドワークを重ねるなどして集成してきたものです。
進学・就職、入学・卒業と、部員の入れ替わりも避けられない中で、自分たちの脚で発掘してきた資料を、今回は顧問の佐藤先生のサポートを受けながら、1・2年生に発表してもらいます。

******************************************************************************


懇親会については中島公園からほど近い『やきとりABURIABURI(あぶりあぶり)』にお席をご用意させていただきました。気取らない食べ物と美味しいビールなどで発表会や句会の内容をまた振り返っていただければ幸甚でございます。
句会終了後、ご一緒に徒歩でお店に向かいます。文学館1階ロビーでお待ちください。

講演会・句会締切は9/11(以降も受付しております)、懇親会締切は9/9(以降はキャンセル待ち対応)となっております。いずれにも多くの方のご参加をお待ち申し上げます。

お問合せ先
itakhaiku@gmail.com


俳句集団【itak】幹事会一同


2013年8月19日月曜日

第九回俳句集団【i t a k】イベントのご案内



第九回俳句集団【i t a k】イベントのご案内です。



俳句集団【itak】事務局です。
晩涼という季語がぴったりになってきた北海道です。


第八回講演会・句会には42名のご参加をいただきました。
三連休初日のご参加、ありがとうございます。

下記内容にて【itak】の第九回 研究発表会・句会を開催いたします。
どなたでもご参加いただけます。
今回はいつも【itak】に参加してくれている
琴似工業高校文芸部の皆さんによる研究発表会です。
多くの方々のご参加をお待ちしております。
懇親会のご用意もございます(実費)。
初秋の俳句談義に花を咲かせましょう。



日時:平成25年9月14日(土)13時00分~16時40分

場所:「北海道立文学館」 講堂

      札幌市中央区中島公園1番4号
      TEL:011-511-7655

■プログラム■


第一部 研究発表会


石狩の句会・尚古社の歴史
     ~伝説の俳人・井上伝蔵

 パネラー 札幌琴似工業高校文芸部



 ・ 井上伝蔵の足跡を追って 尚古社に眠る井上伝蔵の俳句研究
 ・ 俳句結社 尚古社に眠る俳句研究
 ・ 子規に消された俳人研究
 ・ 道内・本校の高校文芸部の活動紹介・句会紹介
 



第二部 句会(当季雑詠2句出句)


<参加料>
一    般  500円
高校以下 無  料  (但し引率の大人の方は500円を頂きます)
※出来る限り、釣り銭の無いようにお願い致します。
※イベント後、懇親会を行います(実費別途)。
  会場手配の都合上、こちらは事前のお申し込みが必要になります。
  会場および会費など、詳細は下記詳細をご覧ください。


■イベント参加についてのお願い■

会場準備の都合上、なるべく事前の参加申込みをお願いします。
イベントお申込みの締切は9月11とさせて頂きますが、締切後に参加を決めてくださった方はどうぞ遠慮なくこちらのメールにお申込み下さい。

なお文学館は会場に余裕がございますので当日の受付も行います
申し込みをしていないご友人などもお連れいただけますのでどなたさまもご遠慮なくお越しくださいませ。


参加希望の方は下記メールに
「第九回イベント参加希望」
のタイトルでお申込み下さい。
お申し込みには下記のいずれかを明記してくださいませ。

①講演会・句会ともに参加
②第一部講演会のみ参加
③第二部句会のみ参加(前日までにメール・FAXなどで投句して頂きます。)

特にお申し出のない場合には①イベント・句会の通し参加と判断させていただきます。
 



■懇親会詳細と参加についてのお願い■

会場:やきとりABURIABURI(あぶりあぶり)
    中央区 南9西6 札幌エクセルホテル東急さん 西隣り 011-561-8484
    http://members.jcom.home.ne.jp/basilbasil3/
   
時刻:17:30~19:30
会費:4000円(飲み放題つき)※当日キャンセルはキャンセル料を申し受けます
定員:35名(先着順・キャンセル待ち対応いたします)
 


店舗の準備の都合上、こちらは必ず事前のお申し込みをお願いします。
懇親会申し込みの第一次締切は9月9日とさせて頂きます。
以降はキャンセル待ちとなりますがお問い合わせください。
参加希望の方はイベントお申し込みのメールに

④懇親会参加

とお書き添えください。


itakhaiku@gmail.com

ちょっとでも俳句に興味ある方、今まで句会などに行ったことのない方も、大歓迎です!
軽~い気持ちで、ぜひご参加ください♪
句会ご見学のみのお申込みもお受けします(参加料は頂戴します)。




北海道立文学館へのアクセス

※地下鉄南北線「中島公園」駅(出口3番)下車徒歩6分
※北海道立文学館最寄の「中島公園」駅3番出口をご利用の際には
①真駒内駅方面行き電車にお乗りの方は進行方向先頭部の車両
②麻生駅方面行き電車にお 乗りの方は進行方向最後尾の車両に
お乗りいただくと便利です。




2013年8月17日土曜日

『ドライな目』 山咲臥竜句集「原型」を読む ~鈴木牛後~




『ドライな目』 山咲臥竜句集「原型」を読む
                  ~鈴木牛後~

山咲臥竜さんの句集「原型」を読んだ。「臥竜」という俳号から、またツイッターでの「議論好き」という印象から(私がそう思っているだけかもしれないが)、かなり骨太の男っぽい作風をイメージしていた。

冒頭の三句


壺焼の腸勾玉の原型か
魚の氷に上るや我は火酒呑まん
料峭や塒の魑魅(すだま)薙ぎ払ひ



このようにイメージを裏切らない始まりだったのだが、通読してみると、実はかなり繊細なタッチの目立つ句集だった。


木々の芽や小さく畳みしラブレター
たをやかに爪弾く琴や花月夜
葉桜の風に光にシーツ干す



このように、女性的とも言える句も少なくない。
おそらく作者は男性的とか女性的などということに興味はなく、ひたすら俳句らしい俳句を追い求めているのではないかと思う。
そのことは、作者の人物像が作品上で明らかにならない、ということからも窺える。たとえば家族のこと。句集中に家族の姿を発見したとき、読者は作者に親しみを感じる。父母や子や孫への愛情を詠んだ句は当然であるが、肉親との埋めがたい距離を感じさせる句であっても、家族との間に交わされる感情の行き来には心を動かされるだろう。

だが、句集中には家族を詠んだ句はほとんどない。意識的に除いてあるのかと思うほどだ。


蛆いぢりゐて母の平手を食らひけり


これが唯一かと思うが、これとて句の主役は母というより蛆の方であるかもしれない。

作者がひたすら俳句を求めているということは、道徳とか倫理というようなものに対して距離を置いていることからも窺える。


紅梅や少女と微熱分かち合ひ
長襦袢解けば刺青や月おぼろ
夜霧濃し娼婦は赤き唇(くち)ゆがめ



このような、怪しげな雰囲気の句も散見される。これらの句が成功しているのかどうかは私には見極められないが、読者に対して「いい子」になろうとする意図はないようだ。一種のスパイスとして集中に潜ませるという演出なのかもしれないが、ここは、きれいごとではないことを詠むことで、安易な抒情に流れることを拒んでいるのだと受け取りたい。

また、作者の主観を表明した句も少なく、事象を丹念に詠むことで世界を表現しようとする意志が感じられる。だが一方で、作者が世界に対してどのようなスタンスで臨んでいるのかということは、一読者として興味がある。作者の意図とは別に、それが句集を読む楽しみのひとつであるからだ。しかし作者はそんな読者の詮索を断ち切り、俳句のまん中を歩んで行こうとしているのだろう。

最後に好きな句を挙げておきたい。ドライな目で対象を見つめる句が私には好ましく感じられた。


青年の横顔に髭梅月夜
下萌に鼻擦りつけて駒の昼
花冷や卓にこぼるる粉薬
佐保姫やうすくれなゐの貝の肉
しなやかにかひな二本や更衣
草の上の蛇は草より濡れてをり
汗の子の果実めくなり風の丘
夜の秋貝殻骨に影ほのか
爆心地跡の屋台に舌焦がす
赤飯に胡麻塩の斑(むら)鳥渡る
これよりは鬼の棲むべし夕紅葉
ひからびし一枚の皮膚まとひ冬
帰り花咲く散りぎはのやうに咲く
日溜りへ枯野の沖を掻き分くる
雪の上に血溜りそこへ積る雪
風花や屠りし牛の黒目にも
野良猫のゆるぶ眥(まなじり)日脚伸ぶ




☆鈴木牛後(すずき・ぎゅうご 俳句集団【itak】幹事 藍生同人)



2013年8月13日火曜日

「あすてりずむ」を読む ~久才透子~

「あすてりずむ」を読む ~久才透子~


私の手のひらに、一冊の句集が乗っている。
そう、片手に乗るほどの小さな薄い俳句同人誌「あすてりずむ」
ネットプリントの俳誌。
 

 
これは、俳人三人の合同句集である。
それぞれ違う結社に所属する三人。
その内のお一方、金子敦さんとはネット句会でご一緒させていただいていて、Facebookのお友達でもある。



ある日、Facebookに俳誌のお知らせ。
購入先はコンビニになっている。

ネットプリントをコンビニで購入??


アナログ人間の私には、とんと理解できなかった。
モタモタしているうちに一号のダウンロード期間が終わってしまった…………。

そして再びFacebookに第二号発行のお知らせ。
迷っている暇はない。
と、そこで他力本願な私は、夫に頼んだ……。買ってきてと。



そして夫はピラピラ一枚の紙を持って帰ってきた。

なんでも、チケットなどを買う機械に番号を入力したら、FAXから出てくるのだそうである。
その一枚の紙を切ってパタパタ折ると、可愛い冊子の出来上がり!

と、前置きが長くなりましたが、こうして無事に手にいれました。
あすてりずむ、第二号。
七月七日発行。七夕に合わせてか、表紙は夜空に流星群。素敵です。


ここで、心に響いた句を紹介させていただきます。



 眼鏡置き眼鏡休ます昼寝かな   後閑  達雄

私も眼鏡をかけている。以前はコンタクトだったが、コンタクトの方が目の疲れを感じるようになり、一日中眼鏡のスタイルに変えた。
そう、目が疲れることは考えたことはあっても、眼鏡を休ませることは考えたこともなかった。そういえば、私が起きている間、眼鏡はフル活動である。 眼鏡がなくっては何も出来ないのに、それほど感謝の気持ちを持ったことがない。
作者は優しい人なのだ。
眼鏡をひらがなで書いても良かったかな、とも思った。

めがね置きめがね休ます昼寝かな

見た感じの印象が柔らかい、というだけの事なのだけど。
勝手を申しました。



 白日傘きりんの前で廻りけり   後閑  達雄

きりんを眺めている作者。作者ときりんの間に、女性が日傘をさしている。
作者の視線の先には、日傘、きりん、青空。
時折日傘はくるりとまわる。爽やかで気持ちがいい。
でも、作者の視線は遠い昔に向いているように感じる。
作者の母親の若い頃とか、子ども時代の幸せな記憶。そんなことが結びついているように思う。
動物園って、そんなノスタルジックな気持ちにさせる場所のような気がする。
だからこの句をみると、爽やかなのにちょっと切ない気持ちにもなる。


 線香の微かな反りや梅雨に入る   金子敦

もともと、匂いや気温、湿度を感じる文章や句が好きである。
線香がある生活。
線香って持ち上げた時に折れてしまいそうに頼りない。
一本つまむのに少し神経を使う。ちょっとした真剣な一瞬。
線香をつまむ一瞬って、誰かに手元をじっと見られているような気がするのは私だけ?
季節の移り変わりに、時間が悲しみを薄めてくれるようでもあり、
梅雨…というのが、また違う悲しみに入っても行くようでもあり。
静かな時間を感じる句。


 紫陽花の毬に触れたる保冷箱   金子敦

紫陽花に保冷箱。庶民的な生活用品と紫陽花の取り合わせが新鮮だった。
雨ざらしになっている保冷箱に、こんもり育った紫陽花。
ちょっと雑多な感じ。こんな庭、もしくは店先、あるあると笑ってしまった。
紫陽花って思い出に浸るような句をよく見かけるけど、生活感のある、こんな句もいいですね。
紫陽花と白い保冷箱との色のコントラストも綺麗。


 白玉や相方と呼ぶひととゐて   小早川忠義

時々、妻や夫のことを「うちの相方」と云う人がいるけれど、作者もそうなのかな。または仕事の仲間?
私は、相方と言われると、どうしても漫才コンビの相方って思ってしまうのだけど。 作者の仕事の仲間だろうか。
白玉と相方、この言葉の組み合わせってちょっといなせな感じがする。
ああ…。でも、男同士で白玉は食べないかしら?


 故郷への花道として五月富士   小早川忠義

「あすてりずむ」は、作者がそれぞれ、短いエッセーを書いている。
それによると、小早川氏の店で働いていたアルバイトが故郷に帰って行ったそうだ
 親の介護をするために。
多分、その人への句なのだろう。はなむけの言葉として、五月富士は晴れがましく目出度い。
エッセー文を読んでからこの句を読むと、去っていく人へのまっすぐなエールが心地いい。



さて、次のあすてりずむは10月頃になるらしい。
今度は自分で買いに行こう。
また、小さな優しい世界に触れるのが楽しみである。


俳句同人誌「あすてりずむ」
金子敦後閑  達雄小早川忠義



☆久才透子(きゅうさい・とうこ 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)




2013年8月11日日曜日

五十嵐秀彦句集『無量』と今後のブログ更新のお知らせ



俳句集団【itak】です。

このたび当会代表である五十嵐秀彦の句集『無量』が書肆アルスより出版されました。


序文・藍生主宰の黒田杏子先生

跋文・雪華主宰の深谷雄大先生

帯文・酒場詩人の吉田類さん

表紙絵・漫画家・イラストレータの田島ハル氏。

版元・書肆アルスによる

フランス装の造本が美しい一冊です。

残部僅少ながら以下にて販売しております。

お手元に置いていただけたら幸甚です。


書肆アルス
http://shoshi-ars.com/

紀伊国屋書店
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784907078072


************************************************************************


このあとしばらくは、献本やご紹介いただいた句集の書評、
札幌でのイベント雑感など、【itak】幹事による小文を公開します。

また、少し時間が過ぎてしまいましたが【itak】参加者による
週刊俳句落選展の記事に頂いたメールの公開なども予定しています。

このブログは【itak】にご参加いただいた方の文章を随時
掲載させていただきます。句評・イベント評に関わらず
広く掲載させていただきたいと思いますので、ご希望の方は
俳句集団【itak】までメールくださいませ。

itakhaiku@gmail.com


また、コメント欄の入力が難しい方も、メールにてコメントいただければ
代筆させていただきます。お声掛けくださいませ。






2013年8月8日木曜日

第八回句会 投句選句一覧④


※作者・投句一覧が空欄のものは 掲載の許可がなかったものです

#投句・選句一覧
 
 

第八回句会 投句選句一覧③


※作者・投句一覧が空欄のものは 掲載の許可がなかったものです
#投句・選句一覧 
 

第八回句会 投句選句一覧②

 
※作者・投句一覧が空欄のものは 掲載の許可がなかったものです
 
#投句・選句一覧
 
 

第八回句会 投句選句一覧①


※作者・投句一覧が空欄のものは 掲載の許可がなかったものです
#投句・選句一覧
 
 
 

2013年8月7日水曜日

『やぶくすしハッシーが読む』~句会評兼第8回の句会から~掲句一覧

『やぶくすしハッシーが読む』をご高覧頂きありがとうございました。
掲句について一覧をまとめましたのでご覧くださいませ。

  
◎恋の字の心を隠し泳ぎけり       戸田幸四郎
〇カーテンの汚れ目につく西日かな    江崎 幸枝
〇冷し酒露になるまえ空にする      福井たんぽぽ
〇泳ぐなりひたすら己が影を追ひ     松田 ナツ
〇ファックスに黒い蝶々がまぎれこむ   平尾 知子
〇セロファンと硝子の間空蝉は      籬 朱子
〇紫陽花はきつと二日酔いを知ってる   後藤あるま
〇萍やわかりましたとすみません     室谷安早子
◎月涼し碧き絵具を指で溶く       今田かをり
〇夏椿私を捨てて朝が逝く        山田美和子
〇渦巻のタイムマシンに火を着ける    大原 智也
〇炎天にレンガ煙突たぢろがず      増田 植歌
〇しほさゐや夙に蜂起の雲の峰      及川  澄
〇電車待つ海霧迫りくるホームにて    小笠原かほる
〇花茣蓙や乳房たちたわわに笑へ     早川 純子
フライミートウザムーン不義の恋にも飛ぶべし乙女
                    伏島 峰四