2016年12月13日火曜日

俳句集団【itak】第28回句会評⑤ (橋本喜夫)


俳句集団【itak】第28回句会評⑤

  2016年11月12日
 
橋本喜夫(雪華、銀化)
 
 
 小春日やネジのゆるみし老眼鏡   平野 絹葉


小春日、ネジのゆるみ、老眼鏡の老い 関係性は近い。だから共感は得られると思う。とても感じのよい句である。眼鏡のつるの蝶番のねじは本当によくゆるむし、年を取ると体のいたるところのパッキンがゆるむ。老いのいう観念めいたものを詠まずに、「老眼鏡」というモノを詠んだことが最終的にこの句を成立させたのだと思う。

 
 もみじ舞う私の中の少年へ      酒井おかわり

 
自分のなかに内在する少年性を詠むとき、鹿など動物を詠むことが多い。そういう意味でもみじは珍しい。それと俳句に詠みも読みも性別ジェンダーは無関係であるが、この句を採ったひとはできたら、女性の句であってほしいと思ったかもしれない。名乗りのあとでいつものように落胆の声が漏れた。

 
 介護士の背に手を添ふる小六月   松田 ナツ

 
気になった句である。ただし話し手がこの句の主人公なのか、介護士、介護されている人を外で観ているのか?作者の立ち位置がよくわからない面があった。介護士の背中に手を押し当てて歩行訓練をしているところだろうか。働いている介護士の方をお手伝いしているのか?とも思った。直截的に添ふるではなくて、当つる でもいいのかもしれない。

 
 まだ少し草の炎の色冬に入る     古川かず江

 
今年のような冬へのスピードだと実感のある句である。まだ十分にいきいきした色を呈しながら雪に埋もれていった草花だった。まるで草の生き埋め状態である。そんな今年の状況を過不足なく表現できている句。

 
 氷下魚の百度叩いて百度嚙む    ふじもりよしと

 
昭和世代にはたまらない句。天でいただいた。私の頃はコンビニもないので、「ソフトかんかい」などは存在せず、「げんの」で叩いて軟らかくして、から毟って食べる。そのままかじると歯が折れるくらいの硬さで、よく噛んでたべないと「腹が痛くなるよ」と亡き母やじいちゃんに言われていた。亡き父には「たくさん食べすぎると盲腸になる」と嘘くさい脅かしをうけていた。子供時代にはおやつがわりに毎日でも食べた。中七以下の百度のリフレインも口誦性があり、よくできている。北海道季語の例句として採用したいくらいの佳品。

 
 荒ぶるを生業とせし冬将軍       三品 吏記

 
あまり人気がなかったようであるが、冬というモノを大づかみした佳句と思う。とくに中七までの大づかみな、擬人法が奏効している。惜しむらくは過去形の「せし」ではなくて「せる」にすべきと思う。生業は「なりわい」と読ませるべきであろう。

 
 不意討ちの冬の初めやココア飲む  辻村 幹子

 
中七までの措辞は前述したように今年の北海道の冬を言いえている。そのあとの実生活としての「ココア飲む」がこの句を落ち着かせて、逆にリアルなものにしていると思う。中七のや切れはけっこう難しいのだが、この句はうまく嵌っている。

以上、最後の方は腰が痛くなって、走り書きになりました。それでは皆様また次回まで(了) 

※主宰業のお忙しい中の句会評、いつもありがとうございます。来年も変わらぬ喜夫節でバッサバッサとご句評下さい。本年も残り少なくなりました。句会にご参加下さった方々に、心より感謝いたします。風邪などお召しになられませんよう、どうぞご自愛くださいませ(幹事会一同)。


 

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