『りっきーが読む』 (最終回)
~第23回の句会から~
三品吏紀
グーチョキパー柚子湯に鍛え足の指 古川かず江
柚子湯や菖蒲湯などの季節を楽しむための入浴は、いつもよりちょっとゆったり浸かりたいもの。鼻歌混じりの風呂場は爽やかな柚子の香りに満ちて心地よいのだろう。
長湯しつつもなんとなく、手持無沙汰ならぬ足持ち無沙汰。きっと何気なく足の指でグーチョキパーなんて遊んでいたら、思ったより上手くできなくてつい練習に熱がこもってしまったのだろうか。
そういえば私の父も妙に足の指が器用で、幼い私と遊ぶ時によく足の指でジャンケンしたり、つねってきたりして構ってくれた事があったのを思い出す(さすがに足でつねられると腹が立ったので、グーパンチでお返ししたが(-“-))
風呂場の閉じられた空間に流れるゆったりとした時間。日常から切り離されたひとときと共にある柚子の香が、読み手の鼻腔をくすぐるような。
初湯たぷたぷ何時の間にやら古希迎へ 田口三千代
いつもよりちょっと多めのお湯でゆっくりと初湯の時間を楽しむ。
普段なら多忙ゆえ烏の行水で終わるところを、この時だけは湯の中に身も心も沈め、じっくりと思いを巡らす。
慌ただしく駆け抜けてきた時の中、ふと立ち止まってみるともう古希を迎える自分。
なりふりかまわず走ってきた人生、ここから先は少しゆっくり歩んでいこうじゃないか。
「たぷたぷ」というオノマトペが、時の流れにたゆたう自分を表し、「ちょっと力を抜いていこうぜ」と語りかけているような。
致死量の恋ぽとり入れ河豚の鍋 酒井おかわり
「致死量」「恋」「河豚の鍋」
この三つの言葉で既にストーリーが出来上がってしまっている。
河豚鍋を囲む二人。この嗜好でおそらく肉体的にも精神的にも円熟している男女なのだろう。
そしてこの恋は互いに大っぴらにできないもの。やがて行き着くとこまで行った先には、アンハッピーの結末しかないのだろう。致死量の恋という措辞に、そんな気配を感じる。
そうなることが分かっていても惹かれ合う心。
そしてまた致死量の恋を入れた鍋を囲む夜を迎えるのだろうか。
(了)
☆三品吏紀 :俳句集団【itak】幹事、北舟句会、迅雷句会
0 件のコメント:
コメントを投稿