2014年3月2日日曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~久才 秀樹~



句集『無量』の一句鑑賞



久才 秀樹

 

 
 秒針の速度牡丹雪の速度     五十嵐秀彦


 こな雪、つぶ雪、わた雪、ざらめ雪、みず雪、かた雪、春待つ氷雪。「津軽には七つの雪が降る」という歌があるが、北国の雪は7種類どころではなく、毎 回違う顔を見せてくれる。
 
 掲句は「牡丹雪」。雪の落ちる速度を秒針に例えただけと言えばそれまでだが、この句に惹かれた理由は、秀彦氏が、数ある雪の中から、この「牡丹雪」を選んだからだ。

 この句の秒針は、流れるように回る秒針(スイープ運針)よりも、「カチカチ」という1秒ごとに刻むもの(ステップ運針)に感じられた。その秒針には、温かく湿った「牡丹雪」がぴったりだ。秒を刻むように降る牡丹雪は、北国の人々にとって待ちわびる春への、まさにカウントダウンともいえる。

 雪国に住む俳人だからこそ、この取り合わせが生まれたのだと思う。『無量』は雪を意識してまとめられた句集ではないだろうが、私には「冬」、特に「雪」を題材とした句に惹かれるものが多かった。『無量』には、秀彦氏の師であり、「雪の雄大」と呼ばれる深谷雄大氏(旭川)も跋文を寄せている。



☆久才秀樹(きゅうさい・ひでき 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)


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