2014年2月28日金曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~岩本 茂之~

 

句集『無量』の一句鑑賞



岩本 茂之

 

 
 はまなすや語り部として地に翳る     五十嵐秀彦


3年前、日本最東端・根室半島の先端にある納沙布岬に行った。どっしりと低くて太い灯台からは歯舞諸島がよく見え、北海道が千島列島とつながっていることを実感させられる。北海道地図を広げると、利尻、礼文、天売、焼尻、奥尻といった他の離島より本島に近いことが分かる。その日は島から煙が上がっているのが見えた。燃しているのはもちろんロシア人で、その距離たった3キロちょっと。こんなに近いのに人と人との行き来はない。

灯台のそばには、やはり日本最東端をうたう食堂があって、私はラーメンで体をあたためた。そんな食堂のそばや、海辺にはハマナスが咲いていた。ハマナスの花は、あの派手で華麗なバラ科に属しながら、どこか地味で寂しげで、荒涼とした何もない海辺がとても似合う。

長い長い歴史のなかで、ハマナスはいくつもの物語を見てきたことだろう。例えば、クナシリ・メナシの戦い。フランス革命と同じ1789年(寛政元年)、和人が科した苛酷な労働や暴行に怒ったアイヌ民族の有志が蜂起し、首謀者37人は松前藩によってこの地で処刑された。その石碑もあって、その事実を初めて知った。現代に入っても1945年夏のソ連参戦で歯舞の住民は島から追い出され、漁師は長年、拿捕や銃撃に苦しんできた...。


掲句は、史実に残らないことを含め、厳寒の北海道でたくましく生き抜いてきた人間や生き物たちのさまざまを想起させてくれる。そしてハマナスの赤は、ブラキストン線の北側で生まれ育った者の持つ北方性を色濃く帯びているとも感じさせてくれる。



☆岩本茂之(いわもと・しげゆき 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)






 

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