2014年2月26日水曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~恵本 俊文~


句集『無量』の一句鑑賞

恵本 俊文

 
 
 こときれてゆく夕凪のごときも        五十嵐秀彦



2013年12月29日夜。

東京、新宿のゴールデン街にある「裏窓」という店にいた。

故・浅川マキさんの曲名を店名とした狭い店内には、マキさんが使ったヤマハのアップライトピアノが置かれている。この日は、マキさんとの共演も多かった渋谷毅さんのソロライブが開かれた。

「夕凪」が織り込まれた一句。マキさんの「夕凪のとき」という曲が思い浮かぶ。ぱったりと風が止むとき、命あるすべてのものがこときれる。いや、命なき無機物までもが、そうであるような気さえする。夕凪のごときものは、身の回りに、無数にあるのだ。風が急に止む瞬間、ぼくは言葉すら失ってしまいそうになる。

かつて、マキさんがポロンと弾いたピアノから流れてきたのはダニー・ボーイ。渋谷さんが演奏を終えた時、この小さな店にも夕凪が訪れた。



☆恵本俊文(えもと・としふみ 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)

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