2013年5月31日金曜日

『かをりんが読む』 ~第7回の句会から~ (その3)


『 かをりんが読む 』 (その3)


~第7回の句会から~
今田 かをり

一徹の「売り切れご免」桜餅

和菓子、とりわけ生菓子は季節を感じさせるお菓子である。その中でも「桜餅」は、最もポピュラーな季節の和菓子であろう。期間限定なのである。それだからこそ、その期間はちょっと多めに作って売ればよさそうなものなのに、「一徹」の和菓子職人は作らない。あくまでも丁寧に一つずつ、道明寺粉を蒸した餅に餡を詰めて、塩漬けの桜の葉でくるむ。ただし、これは上方風。私の大好きな和菓子のひとつである。「売り切れご免」という、ぶっきらぼうな物言いにも、職人気質の店主の顔が浮かぶ句である。
 

さくら待つ札幌市電試運転

先日、試運転している市電の新車両を見た。窓が大きく、低床で、そして白と黒を基調とした洗練されたデザインの外観であった。この句のよさは、まず口ずさんで楽しいことである。「さくら」の「サ」、「札幌」の「サ」、「市電」の「シ」、「試運転」の「シ」と、サ行が畳み込むように使われていて、弾むような気持ちにぴったりである。一読、ちょとしたキャッチコピーのような句であるが、「待つ」が、「さくら」と「試運転」の両方にかかっていて、なかなかよく考えられた句なのである。
 

風光る工事現場のコーヒー缶

作業員が休憩の時に飲んだのであろう、コーヒー缶が工事現場の片隅に捨てられている。まだ少し温みも残っていそうなコーヒー缶である。さてそこに季語の「風光る」をもってきた。春風の中に感じられる光、その光が「コーヒー缶」に反射している景が浮かぶ。季語を「春風」ではなく「風光る」としたところに、この句のよさがあるのだと思う。「コーヒー缶」ではない物を持ってきたら、また新しい物語が始まるかもしれない。
 

初夏や小瓶に移す化粧水

 「初夏」「小瓶」「化粧水」、これだけでドラマの一場面になりそうである。けれど、口当たりのよいだけの句ではない。化粧水を小瓶に移すという、日常の一コマが実感をもって表現されているからだろう。化粧水も夏の暑さには劣化するのである。おそらく、この後、化粧水は冷蔵庫に入れられるはずだ。「初夏」という季語からも、そして小瓶に移されている「化粧水」からも、柑橘系の香が立ち上ってくる。


(つづく)




 


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