2016年2月20日土曜日

~まる裏俳句甲子園に初挑戦~ 北海道チームの松山奮闘記②

 
~まる裏俳句甲子園に初挑戦~
 
北海道チームの松山奮闘記②
高畠 葉子
 
 北海道から初参加となった高校生以外も参加できる第14回高校生以外のためのまる裏俳句甲子園。牛後さんの予選レポートに続き、決勝トーナメント(決勝T)の舞台裏などを葉子がお伝えします!

◆1回戦の席題「寒椿」

 決勝Tの舞台に立つ。これが、私たちの第一目標だった。決勝Tから文字通り「舞台に立つ」のである(予選は、壇上には夏井組長とアシスタントのアナウンサーだけで、参加者は会場のパイプ椅子で観戦。決勝Tになってから、舞台上での赤白対戦となるのだ)。
 何せ俳都松山。いつき組の組員ら名だたる俳人がずらりと勢ぞろいしている。全国規模の俳句賞受賞者も数々いる中で「イタックしばれーず」の決勝T進出は快挙である!と言って良いだろう。だが、この自画自賛気味の思いは数分後に凍りつくような汗を流すことになるのだった。まさにチーム名の通り「しばれて」しまうのだ。(※「しばれる」東北、北海道の方言で酷く寒い、凍りつくの意)。

 予選を1位通過したことに気を良くした私は「お昼は何を食べようか~♪」なんて事を考えていた。会場近くにある老舗旅館でランチしながら午後に備えよう!・・・と透子さんを誘ったりしている。まったく暢気なものだ。

 予選が終わった直後に、午後からの決勝Tの席題が発表された。
1回戦『寒椿』、2回戦『写』、3回戦の決勝は『雪』であった。
 後ろの席には優勝のチーム「ラ・サエズリ」の三人様。さっそく準備に取り掛かっているらしい。このお三方の名前と俳句は何度か目にした事がある。蜜柑農家の若奥様方で生活に根付いた句を発表されている。季語の現場を表現される実力者たちだ。私の様子に見かねたのか声をかけて下さった。「これから決勝の句を30分で作るんですよ」と。優しい笑顔と声だった(ここで私はなんと優雅な振る舞いと声なのだ!と感激した)。ところが浮き足立っている私はどうやら正しく情報処理するネジがぶっ飛んでいたらしい。それでも、30分しかないのなら、外でランチするような場合ではないことには気づいた。惜しくも予選敗退した道内勢の「北の国から」のメンバーが買ってきてくれたオニギリをほおばりながら「寒椿・・・寒椿・・・寒椿・・・」。2回戦は、「写」だって? 「雪」もちょっと準備しなきゃね、でも今は「寒椿」を考えなきゃ――と少し余裕の「イタックしばれーず」の3人であった。


◆しばれる「しばれーず」

決勝Tの壇上であいさつする
イタックしばれーずのメンバー
 「3句できた?」。メール句会などで交流があった地元愛媛の「宇和島じゃこてん句会」の更紗さんが様子を見に来て下さった。浮き足立っていた3人は、ここでようやく正確なルールに気づいた。寒椿だけではなく、決勝Tの3題=3句をまとめて、提出しなくてはならなかったのだ・・・。
 主催者の方が「残りあと5分ですよ・・・」と知らせにやって来る。ここで、温暖な松山・道後温泉で「イタックしばれーず」は正真正銘しばれてしまったのだ! もう推敲だとか言ってる時間じゃない。用紙に十七文字を書き込むしかない。とにかく手元にある用紙に3句を書き込まなくては! 書く書く書く! 『写』と『雪』の句も書く! ただただ、文字を書き込むのが精いっぱいだった。終了のアナウンス時には最後の2文字に「けり」を書いていた気がする。実はどんな句を書いたのか記憶がないのだ。私の場合、実質、最後の5分で2句作ったわけだ。


決勝Tではディベートが行われる。
左は1回戦の対戦相手「三日月T」
 とにもかくにも3人とも何とか用紙を提出し、呆然とするイタックしばれーず。
名は体を表す――とはよく言ったものだ!と感心したりしている。ナイスネーミングではないか。今では笑えるがこの時は「あの酷い句を晒されるなんて耐えられない・・・」などと心配していた。冷静になって考えれば、トーナメント戦だから、1回戦(寒椿)で勝たなければ、2回戦「写」の句もお蔵入りなのだ。それすら考え及ばないほど混乱していたのだ。

3試合目はイタックしばれーずの
白旗が3本上がった

さて、決勝Tは、それぞれ3人の句を披講し、ディベートを行う。5人の審査員が句とディベートの出来を判断して旗を上げて判定する。3試合中2試合取れば勝ちである。1回戦の対戦相手は「三日月T」。過去数回の優勝経験のあるチームだ。
 三日月Tさんの句は、第1試合「寒椿鉄門の勘兵衛石」、第2試合「薬莢の余熱匂うや寒椿」。ともに格調高い句だ。すごいと思うばかりだが、ここはディベートの場である。だがどこを攻めてよいのかさえ分からない。短時間での鑑賞力もまた必要なのだ。私は間抜けな質問を繰り返すばかりだった。「季語は動きませんか?」と。私は内心「動かないわぁ。寒椿で決まりだわぁ」と思いつつ発言していたのだ。だって他にどう攻めていいか思いもつかないのだから。

最後は【itak】の宣伝も

 結局、1試合、2試合とも連続で落として、1回戦敗退が決定。勝負が付いたため、3試合目はディベートを行わず、すぐに判定となったが、3対2で「しばれーず」の旗が多く上がった。何とか面目は保つことができ、試合後のあいさつでも、【itak】を宣伝することもできた。

ちなみに「しばれーず」の決勝句は・・・




 人の世に人ちりばめて寒椿  (牛後)

 赤裸々な告白寒椿のごと   (透子)


 泣き言は嫌い長女の寒椿   (葉子)



◆北海道の「雪」の句を

 その後の試合は、清清しい気分で観戦できた。同じ条件で詠んだ句のはずだが、どのチームも完成度が高い。やはり松山は俳句の基礎体力が高いのだ(松山市内だけではなく、愛媛県全域から来ているのだが、そのチームもレベルが高い)。また、まる裏俳句甲子園はお祭りではないと改めて感じた。短時間に、季節を感じ、季語に託して表現する。表現するための鑑賞。これを切磋琢磨しあう場なのだ。それも楽しく!


打ち上げの締めは「575拍子」で!
 大会が終わり、夜には市内のすし店にて打ち上げも用意されていた。夏の俳句甲子園の際には控室として提供されているお店だそうで、定期的に店で句会も開かれているそうだ。打ち上げの席では「まつやま俳句でまちづくり会」前代表の「あねご」さんとお話をした。あねごさんとは以前からメール句会などでご一緒していたが、お会いするのは初めてだ。毎回ていねいな鑑賞を寄せて下さる方だった。あねごさんは「これから、北は北海道、南は九州からの参加者があると言えるわ!」と私たちの参加を喜んで下さっていた。私にとっても「まる裏」は憧れの場だったが、これからはただ憧れる場ではなく参加することのできる場であると広めたい。最後は、夏井いつきさんが講演していただいた際の【itak】でも披露した「575」拍子で打ち上げを締めた。

 とんだドタバタ劇ではあったが楽しい思い出となる大会だった。松山は確かに遠い。旅費もなかなか高い。それでも俳都松山は魅力的だし、多くの俳人との出会いはこれからの俳句生活にも大きな糧となるに違いない。決勝戦のお題は「雪」と決まっている。会場で出会った多くの人から「北海道の雪の句を楽しみにしていたよ」と言われた。残念ながら今年は発表するに至らなかったが、いつか「これが北海道の雪の句だーーーー!」と言える日が来ることを信じている。

追補:ランチで食べようと思っていた「松山鮓」はとうとう食べる事ができなかったし、道後温泉では足湯さえつかる事ができなかった。これはまた行くしかないね!という訳で、北海道に戻ってさっそく五百円玉貯金箱を買ったのであった。

 【itak】幹事・高畠葉子 記




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