2015年8月28日金曜日

「第十八回松山俳句甲子園・旭川東高等学校参戦記」 ~柳元佑太~


「第十八回松山俳句甲子園・旭川東高等学校参戦記」
 
旭川東高等学校文芸部 柳元佑太
 
 
 

こんにちは。旭川東高校文芸部です。八月の二十一日から行われた松山俳句甲子園大会に出場してまいりました。

まずは、お礼を述べさせてください。たくさんの方に応援していただいて、とても心強かったです。直接応援に来ていただいた方、北海道からネットで見ていただいた方や、SNSの実況を見て、メールをくださった方もいらっしゃいました。応援していただいた皆さん、本当にありがとうございました。

さて、東高校は今回で全国大会に十三回連続の出場となります。今年は三年生二人、二年生一人、一年生二人という混成チームで臨みました。
試合前です。西村和子先生の「何十年先も覚えている、一句を」というお話がありました。言葉の通り、私たちはみな今回の大会で、心の深いところに留まり、ふとしたときに浮かび上がる、そんな句に出会えたと信じています。それだけでも私たちにとっては十分すぎる大会でした。
さて、試合結果から記しますと、私たちは準優勝をすることができました。優勝は名古屋高等学校さん。くどくどと途中結果を記すことはあまり意味がない気がいたしますので、私たちとともに戦った句を記したいと思います。



「向日葵」


向日葵の丘へ気球の影落ちぬ   柳元佑太
泣き虫に影さしかける日輪草    荒井愛永
向日葵や旅の日記は長くなり    木村杏香

「夕立」


ひとことも交はさずにゐる夕立かな   荒井愛永
夕立がカバの背中を叩きたる      柳元佑太
葉脈の透きとほりゆく夕立晴      
 木村杏香

「日焼」


海へ向かうバス運転手日焼して    柳元佑太

君が来ぬ間に日焼してしまふ     木村杏香
日焼け子の四肢よく動く眠りかな   木村杏香

「蝉」


大地割るやうに初蝉羽化したる    荒井愛永
蝉時雨校門くぐる笑顔かな       萩原 海

みんみんや手のひらにみづ溢れたる 木村杏香
蝉時雨空き教室にチョーク跡      本庄 海
いつからか水のなき沢蝉時雨      柳元佑太


「露」


朝の露野菜ジュースを注ぎをり     本庄 海
ポケットに牛舎の鍵や草の露      柳元佑太

とら猫の小さき鼻先朝の露        萩原 海
折り鶴のきつちり折つて夜の露     荒井愛永
露の夜の指揮は小さく始まりぬ     木村杏香

「居」


紙芝居ゆつくり抜かれ雲の峰     木村杏香

雑居ビル長方形に星月夜        萩原 海
居間にジャズバラードやりんご食む  本庄 海
長居して言葉少なき残暑かな      荒井愛永
朝霧や麓の鳥居朽ちてをり       柳元佑太

「待」


流星を待ち伏す滑り台のうへ     柳元佑太
秋隣待受はまだ変えられず      萩原 海
炎天や縄文展の開くを待つ      本庄 海
待ち針の向きは揃はず星流る    荒井愛永
洗濯を待ちたるあひだ素裸      木村杏香


トーナメントの都合上、使用できなかった「日焼」以外は、全ての句を舞台で披露することができました。俳句は読み手半分、作り手半分と言われます。人の目に触れてこその俳句なのだと考えるならば、私たちは最高に幸せな結果を得ることが出来たのかもしれません。稚拙な句もあるかもしれません。ですが、紛れもなく私たちの句です。 
私たちは準決勝で開成高校と対戦しました。開成高校は三連覇がかかる大会で、言わずと知れた俳句甲子園の強豪です。もつれにもつれた試合は、一本の旗の差で旭川東に軍配があがりました。嬉しかった。目指していた高校と真剣に、それでいて楽しい試合が出来たのです。これほど幸せなことはありませんでした。
ただ、です。開成高校さんには逆風が吹いていました。開成高校さんのリーダーがおっしゃっていた通り、あの「開成の句」だから、という偏見もたしかに存在するのです。こういうことは私たちが言うまでもなく、また言う必要がないことで、開成高校さんは自力で飲み込むことができるし、受け止めて句作しておられます。
言いたかったことは、私たちのチームが勝てたのは、私たちが強かったからではない、ということです。開成高校さんに的確な質疑を繰り返していただいたという側面もあるのです。私たちはここに俳句甲子園の魅力を感じます。


さて、決勝の相手は名古屋高校さんでした。互いが互いの句を鑑賞した上でディベートをする、そんな決勝となりました。名古屋高校さんの句には魅力がありました。その魅力をさらに魅力的に話す、そんな名古屋高校さんのディベートは暖かく、会場には拍手が沸きました。
非常に良い時間だったように思います。
同点で迎えた大将戦。私たちは自信を持ってディベートしました。副将戦もそうでしたが、信頼していた句でした。皆が心を寄せていた句でした。そんな句について語れる時間は楽しかったです。
でも、だから、歯痒かったです。自分たちの句で伝えたいことは、こんなにあるのに。自分の口から語る言葉は、それを伝えるには十分ではありませんでした。
旗は名古屋に上がりました。

顧問の先生は、「悔しくもないけれど、そんなに嬉しくもないんだよねぇ、あはは」と笑います。前述したように、私たちは最後まで自分の句とともに戦うことが出来ました。それは本当に幸せでした。
ただ私たちの本音は (少なくともこの文章を書いている私は)悔しくない、というのは少し嘘が混じります。しかし、未踏の場所は憧れとなり、また引力を生みます。

今回の結果は、十三回出場してきた旭川東高校の伝統、積み重ねのおかげであると思っています。先輩方が力を注いできたものが、この結果として表れてくれたのではないでしょうか。たくさんの練習用の句を頂いたり、ディベートに付き合っていただいたり。句合わせを固めていただいたり、メールで励ましてくださったり。OB、OGの方、本当にありがとうございました。

また、予選、決勝トーナメントで対戦した徳山高校のみなさん、松本第一高校のみなさん、磐城高校のみなさん、済美平成中等教育学校のみなさんにも感謝いたします。お互いの句をずっと鑑賞していたかった、そう思えるほど素敵な時間でした。また松山で会いましょう。(口にすれば願いは叶う、と今年教えてもらいました)。



まとめに入ります。今回は、たくさんのことを学ぶとともに、至らなさにも気づかされた大会でした。俳句の奥は深い、と迂闊に言えないほど俳句は深く、そしてわかりません。それでも、俳句を続けたい、向き合いたいと思わせるなにかを私たちは得ました。まっすぐ前を向く時もあれば、横道にそれることもあるかもしれません。しかし、着実な一歩を、いや半歩でも良いから、少しずつ歩いていきたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。



2 件のコメント:

  1. お疲れさまでした。
    会場で決勝戦を観ていました。
     流星を待ち伏す滑り台のうへ
    最も好きな句です。
    高校生でなくては詠めない心情、一句、と思いました。
    自分もいっしょに、果てない夜空を見上げて、滑り台の上に陣取っているかのように、感じました。
    眠い目をこすりながら、じぃっと流れ星を待ち伏せている、そういう時間を共有したかのように。
    あらためて俳句の素晴らしさや、奥深さ、俳句甲子園というものの凄さを実感できました。
    歴史に残る、名勝負だったと思います。
    本当に、ありがとうございました。
    また、必ず戻って来てください。
    来年も、松山で待っていますから。

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    1. 大変返信が遅くなってしまい申し訳ありません。ご鑑賞ありがとうございます。稚拙な句ですが、そういってもらえることで僕自身もこの句に対する思い入れが深まります。ありがとうございます。
      俳句は人に読んでもらって輝くものだと思います。そういう意味では、あの場所はほんとうに素敵な場所でした。リアルタイムであれほどの人の反応を見られ、そうそうたる俳人の方に評価してもらえる。
      来年もあの場所に立てるよう、精進したいです。ありがたいコメント、ありがとうございました。

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