2014年8月10日日曜日

俳句集団【itak】第14回イベント抄録


俳句集団【itak】第14回イベント

一般社団法人北海道古民家再生協会理事長 江崎幹夫さん講演会

 
『 北海道の古民家について 』


2014年7月12日@北海道立文学館

 

 俳句集団【itak】は7月12日(土)、14回目のイベント・句会を道立文学館(札幌市中央区中島公園)で開きました。今回は、一般社団法人・北海道古民家再生協会(札幌)理事長の江崎幹夫さんが「北海道の古民家について」と題して講演しました。江崎さんは建築会社を経営しながら、古民家鑑定士として古い建物の活用などに取り組んでいます。江崎さんは、道内に残る古民家を写真で紹介しながら、古民家の定義や特長、保存活動について説明しました。講演の要旨を紹介します。

 

■古民家とは?

古民家鑑定士は、厚生労働省認可の財団法人職業技能振興会が認定している資格で、6年前にできた資格です。古民家というと藁葺き、茅葺きの建物を想像すると思いますが、鑑定士の教本の中には「築50年以上に経った、伝統構法及び在来構法で建てられたもの」とあります。伝統構法は、昭和25年より以前に建てられたもので、金物をあまり使わない。在来構法は建築基準法のできた昭和25年以降の建物で、金物で固めています。伝統構法は免震的。むしろ現代的な考え方です。なぜ50年以上かというと、国の文化財登録制度で「工作物は50年経ったら文化財に登録できる」という制度があるからです。

総務省統計局が5年に一度取っている統計によると、古民家は2008年に5万7000棟残っています。昭和25年(1950年)以前のものは2万5500棟。昭和26~35年は3万1500棟。合計で5万7000棟です。

意識しないと気付きませんが、札幌市内にも多くの古民家が残っています。6200棟近く残っていると思われます。自転車や歩きながらだと古民家が見えてきて、面白いですよ。一方、毎年2000~2500棟が解体されて、ごみになっています。ただ、50年という基準なので、統計的には増えているかもしれません。伝統構法は減ってくるけど、在来構法(の古民家)は増えていくということです。

古民家鑑定士は全国に6500人います。道内には85人。建物の建材や古材の価値を評価するのが古民家鑑定。不動産の鑑定はしません。不動産鑑定では、建物は30年で評価がゼロになります。固定資産税も30年経つと評価はほぼゼロ。100万円で建てても、30万円で建ててもゼロ。何か変だと思うのですが、古民家の鑑定は、不動産とは観点で評価します。法的には評価はゼロかもしれませんが、違う評価があるからです。古民家を持っている人は、「この家はボロでどうしようもない」と思うかもしれませんが、そうではなくて、違う価値がある。古民家を持っている人が「少し価値があるなら残していこうかな」と思ってもらえるといいですね。そうした意識を変えていくために(古民家再生の)活動をしています。

 

■古材の再活用

古民家の再活用には4つに方法があります。

①現地再生。その場で直す。暗い、寒い、使いづらい。古民家にある三つの問題を現地で直します。良いところは残して、水回りなど使いづらいところ、断熱、耐震など構造的な部分も直します。

②移築再生。これは北海道開拓の村(札幌市厚別区)などにあるパターンです。移築するので、一番、手間がかかるかもしれません。開拓の村では、茅葺きを直すのに5千万くらいかかるといいます。本州に行くと自分たちで直しており、そんなに難しくない。(開拓の村は)少し高すぎるかなと思います。ただ、北海道の場合、技術者がいないので、道外から連れてこないとならないという面があると思います。

③部分再生。ニシン番屋など広くて寒い建物に対して、居間と寝室だけを直すような再生の仕方です。

④古材(こざい)の再利用。古材は固くて丈夫です。古材は古いから弱いと思う人もいるかもしれません。ところが、木材だけは年を経ることで強くなります。100年で、新材のときより1.1~1.2倍くらいになる。古いから弱くてだめ―というわけではありません。実際、古民家や木の住宅は100年、200年も残っている。法隆寺は1400年経っても建っていますね。もちろんメンテナンスはしていますが、なぜ法隆寺の五重塔が1400年も持っているか? それは水回りがないからです。水回りがあるとやはり腐ります。古民家は、「田」の字に建てられているのが特徴です。しかし、トイレなどの水回りは(田の字の)横に付く形で置かれる。大工さんは経験上、木は腐るということを知っているので、水回りを離して建てているのです。

 

■環境に優しい

愛媛大学との共同研究で古民家に含まれているCO2を計算した数字があります。1立方メートルの古材には、炭素が230㌔入っていました。46坪の古民家を調べたところ、古材は17平方㍍あった。17平方㍍×230㌔で炭素は3910㌔。炭素を二酸化炭素に置き換える計算式(3910×44÷12)にすると、1万4337㌔(約14トン)のCO2となります。木材だけでの数字です。ブナの木が1年間に吸収する二酸化炭素の量はわずか11㌔です。これを14トンで割ると、1303本の木が必要となります。北海道ではブナは黒松内くらいしかありませんが、例えばトドマツでは14㌔を吸収。それでも1003本のトドマツに匹敵します。古民家を残すことは環境に優しいということにつながります。さらに、大工さんの技術も残せると思います。

 


■道内の古民家

北海道には全国各地から入植した人がおり、さまざまな様式の古民家が残っています。

①ニシン番屋

日本海側に多く見られ、ニシン漁で繁栄した建物です。

②和洋折衷

札幌など道内の都市にある古民家は和洋折衷が多く見られます。

ワクノウチ造りなどの農村民家

ワクノウチ造りに代表されるに内陸部に見られる農村の民家。
田の字型の建物で、農村の民家に多いです。
明治中期から見られます。ワクノウチは富山県の造り方です。

④バルーンフレーム工法

伝統工法です。北海道開拓使の建物でアメリカの様式。時計台、豊平館、農学校などです。

 


 ■自然素材の家

日本の住宅の寿命は30年と言われます。イギリスは石造りが多いですが、平均144年。米は木造でも104年。日本がいかに短いか分かります。なぜ日本の住宅の寿命が短いのか? 住宅産業としての産業構造があるためだと私は思います。スクラップアンドビルド(壊して建て替える)を行い、住宅メーカーや銀行(金利)が稼ぐため。国の政策だと私は思っています。われわれは、そうしたサイクルをやめて、古民家に学び、長持ちする家、100年から200年もつ住宅を目指しています。

米国では、長持ちする家を建てて、次の代の人はローンを払わなくてよい。日本でもそうしたほうがいいと思います。ただ、ハウスメーカーからは怒られますが。

古民家は自然素材を使っています。だから昔はシックハウスというものはありませんでした。今の中国では、シックハウスで亡くなる人、中国政府が発表していますが、年間220万人に上ります。5歳以下の子供が多い。

有害物質について、日本でも国の基準がありますが、出来たときに出なければよいというものです。5年後に有害物質が出てきても関係ない。定着物質は3年くらい定着していますが、3年したら外に出てきます。病気になったら困るから、24時間換気というものが必要になってきます。自分の体は自分で守るしかありません。国は守ってくれません。

古民家は自然素材で出来ています。しかし、今の住宅に使われている木材は、強制乾燥が多い。天然乾燥、自然乾燥は数えるくらいしかありません。1週間、130度の蒸気をあてて乾燥させています。植物ですから、熱い温度はだめです。残念ながら自然乾燥をしている木材業者が数少ないですが、これから自然乾燥が出てくることを期待しています。

 長持ちする家造りには、自然乾燥材の木材を使い、自然素材の内装材を使う、什器類に費用を掛けすぎず、構造にお金を掛ける。家を長持ちさせることで孫子の代までローンを返し続ける必要がなくなります。住み手も勉強することが、長持ちで快適な家造りにつながると思います。

 

 ■古民家フォト甲子園

 最後に毎年、古民家再生協会が共催している古民家フォト甲子園(一般社団法人住まい教育推進委員会)の宣伝をさせてください。

高校生を対象とした大会で、古民家を生徒たちに撮影、投稿してもらいます。今年は8月31日が締め切りです。高校生のお知り合いがいたら、ぜひよろしくお願いします。大会のホームページは、http://www.kominkaphoto.com/
 

 
えざき・みきお
・昭和29年生まれ
・一級建築士
・一級古民家鑑定士
・伝統再築士
株式会社AI建築 代表取締役
・一般社団法人 北海道古民家再生協会 理事長
・北海道開拓の村の古民家及び古建築を守る会会長
・国家戦略古民家特区招致委員 
 
 
 
 


 
 

☆抄録:久才秀樹(きゅうさい・ひでき 北舟句会)

 

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