2014年8月12日火曜日

鈴木牛後『暖色』を読む ~松王 かをり~




『暖色』という句集名通りの〈あたたかな〉句がいっぱい詰まっていて、掌サイズの可愛い小さな句集に圧倒された。この〈あたたかな〉という言葉は、「命のあたたかさ」に繋がっていくが、けれどそれは、必ず「死」を孕んでいるものなのだ。そういう〈深いあたたかさ〉に圧倒されたということなのだと思う。


 夏草の焦点として山羊の尻


第一句集の『根雪と記す』に、次のような句がある。〈牛啼いて誰も応へぬ大夏野〉広い広い緑の夏野を、牛の啼き声だけが渡っていくという、まさにザ・北海道というようなスケールの大きな句である。ところで、掲句もまた、一面の「夏草」の広がる情景であるが、こちらには「焦点」が存在するのである。それも「山羊の尻」という実に魅力的な「焦点」。緑の夏野の中にある白い山羊の尻に向って、焦点が絞られていく。その結果、〈牛啼いて〉の句より視野が狭まって、スケールも小さくなったかというと、さにあらず。焦点を見い出したことによって、かえって鮮やかに夏野を描き出しているし、読み手もいっそうの夏野を感じるのである。他にも〈緑陰の動いて牛の動かざる〉〈牛臥して鼻の先まで虫の闇〉もそうであるが、第一句集より、いっそう句の陰影が深くなったような気がする。けれどまた、さりげない日常を詠んだ〈作業着を干して鉤裂きより冬日〉、ユーモアの〈雲海へ王のごとくに放尿す〉など、愉しい句も時々顔を出す。牛後さんの人となりを殆ど知らないのであるが、まじめ、誠実といった面と、楽天的、剽軽といった面とを併せ持った人ではないかと、思わず想像してしまうのである

 
 
 
☆松王 かをり(まつおう・かをり 俳句集団【itak】幹事 銀化)
 

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