2014年6月21日土曜日

鈴木牛後『暖色』を読む ~三品 吏紀~



 牛の糞父の拳のごとく凍つ


作者の住む下川町は、真冬には-30℃前後まで下がる。あらゆる物からあっという間に熱を奪い、凍り付いて活動を停止させてしまう寒さだ。牛の糞だろうがなんだろうがそのまま外に放っておくと、ガンガンに凍りついてしまう。
そして今でこそ鉄拳制裁するような父親はいないのだろうが、昔は父親に怒られる=ゲンコツが当たり前だった。そして硬く分厚いゲンコツをもらうのは大抵男の子。
牛の糞が父の拳のように硬く凍りつく。石や岩以上の硬さと質量を感じてしまうのは、やはり父親の存在感の大きさ故だろう。
父との在りし日の思い出が蘇るのか、それとも亡霊として記憶の片隅から出てきたのか、これは作者のみぞ知ると言ったところか。



 裸ひとつこの地に捨つるため稼ぐ



作者は自営業、それも自然や生命を相手に仕事をしている。
私も職種は違うが自営業なので、この句には非常に共感してしまう。
自営業というのはその地にどっしり腰を降ろし根を張って、生涯その仕事一本で生きていく覚悟をしなければならない。
「この地に捨つるため稼ぐ」というのは、かつて自営業になりたての頃の強い気持ちに満ちた過去の自分と、長年の日常に慣れきった、この地と生活から逃れられないという半ば諦めの様な現在の自分とが交錯しているような印象を受けた。
なにか最近の私の心境と重なってるように感じ、強く惹かれた句の一つだ。



 なまぐろく土の匂へる雪解靄



なまぐろく。漢字を当てはめるとすると「生黒く」ということだろうか。
雪に覆われた長い厳冬期を越え、ようやく顔を見せ始めた大地。雪解の土は水をたっぷり含みキラキラと艶黒く光る。
一踏みごとにズブブと足が埋まり、ぬかるんだ土の匂いと雪解靄が混じり合って、辺り一面を覆いつくす。
「なまぐろく」という言葉はまさに雪国の春先の大地を上手く形容していて、本当に鼻先に土の匂いがして来るような言葉だ。まさにこの句を引き立たせているように思う。



☆三品吏紀(みしな・りき 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)


※俳句集団【itak】事務局より
鈴木牛後著 『根雪と記す』 『暖色』 は全く新しい句集作りの提案をする「句集スタイル」から発行されていますチェケラ!⇒http://www.marukobo.com/style/

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