2014年2月13日木曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~高畠 葉子~


句集『無量』の一句鑑賞

高畠 葉子

 
 
 靴底の雪剥がし黙剥がしけり         五十嵐秀彦





雪の朝。前を歩く人の靴底の凹凸をそのまま残し剥がれゆく雪に見とれた事があった。そのシーンは長く私の記憶にとどまっている。いつかこのシーンを表現したい!と冬が来るたびに思いは募るばかりだった。

2013年夏。句集『無量』を開き、真っ先に飛び込んできたのは掲句だった。雪と暮らす人ならば靴底の跡がほろりと剥がれる様に気付く人も少なくはないはずだ。そしてこの秒に満たない瞬間を切り取るのが俳人なのだろう。

この句に出会ってから私は何度となく、靴底から(それは男靴だ。けっして女靴ではない)剥がれる雪と剥がした雪を想った。雪を剥がし、黙を剥がす。ここに、ある瞬間「黙」と決別した(それも長年の黙だ)男が見えてくる。そうだ。この句は解放の句であるのだ!と読みだすと、靴底の雪を剥がした「力」を読まずにはいられない。それはほろりと靴底の雪を剥がす重力ではないのだ。ぱんぱんと自らが地を蹴り雪を剥がし決意を新たにする動作があるのだ。人は何かを思いきる時、或いは決意する時、その瞳は一瞬の動きを捉えるものらしい。私にも剥がれた雪がスローモーションで見えた気がする。

秀彦さんには雪がよく似合うと思う。初めてお会いしたのが雪の夜だったからかと思いきや、多くの方が秀彦さんと冬という季節を重ねているようだ。
これからも秀彦さんの雪を秀彦さんの言霊で触れてゆきたい。



☆高畠葉子(たかばたけ・ようこ 俳句集団【itak】幹事 弦同人)

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