2013年12月13日金曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~三品 吏紀~


句集「無量」の一句鑑賞

三品吏紀
 

五十嵐秀彦氏の最初にして最後(?)の句集、「無量」の一句鑑賞ということで、駄文ながらもここに句評を書かせていただく。
全然見当違いな事を書くかもしれないが、そこは勘弁していただきたい。

「無量」出版直後は、様々な方がSNSや紙面を通して書評を発表していたが、不思議な事にこの句集は何かしら「冬の匂い」が強く感じられるようなコメントが多くあった。
五十嵐氏曰く、「どの季もほぼ同じ数の句を自選した」ような事をおっしゃられていたのだが、なるほど、皆あの表紙にすっかりイメージが焼きついてしまったとみられる。
そこへ五十嵐氏の句が持つ強い言霊が、より一層読者を冬の世界へと引き込んでしまったのだろう。かく云う自分もその中の一人だ。


 街角を曲がる角度で冬に入る    五十嵐秀彦


「無量」五十嵐ワールドの冬の句の中でも、最もシンプルですっきりと詠まれた句ではないかと思う。
通勤通学で通い慣れた街並み。しかし季節が一つ動くたびにその装いも大きく変わってくる。冬に入るともなれば、街路樹の葉はことごとく落ちて裸木となり、人々は着ぶくれして足取りが重くなる。冬囲いなども見られるだろう。
だがそれは四季のある私達の国での一つのルーティン。決して特別な事ではなく、ただ過ぎ行く日常の風景の一つ。
この句は他の冬の句に比べ、直感的に作られた感のある句のように思う。きっと通勤中にふと閃いてて詠んだ句だろう。隠喩的な表現を用いず、「街角を曲がる角度」という生身から発せられた言葉は、とてもシンプルでそして誰もが共感する句ではないか。
いわば「さっぱり風味」の句とでも言おうか。「無量」には難解で思考をフルに使う句が多く並ぶ中、一種の清涼剤としての役割も感じられる。

様々な感性を引き出しに持つ五十嵐氏の傍で、一緒に俳句を楽しむことができるというのは、本当に自分は幸せだとつくづく思う。


☆三品吏紀(みしな・りき 俳句集団【itak】幹事)

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