2015年6月19日金曜日

俳句集団【itak】第19回イベント抄録【第二部】 『句会ライブ』


俳句集団【itak】第19回イベント【第二部】

『 句 会 ラ イ ブ 』

2015年5月9日 札幌・道立文学館

 




第2部 夏井いつきさんによる「句会ライブ」

 
 第2部は、夏井いつきさんが、全国各地の小中学校の授業で行っている「句会ライブ」を再現しました。いつもの「句会ライブ」は、俳句に初めて挑戦する子供たちを相手にしているそうですが、今回は、俳句経験者やベテラン揃い。まず、句会ライブの進め方について、夏井さんが説明した後に、参加者全員が「ちょっと悲しかったこと」をテーマに5分間で1句を創作しました。さらに夏井さんと五十嵐秀彦さん(itak代表)の選んだ7句を参加者が意見を交換しながら、挙手で投票。夏井さんの辛口ながら的を射た名司会に大爆笑の句会となりました。その時の様子をダイジェストにして紹介します(敬称略)。


●5分で1句の作り方

夏井 日本語がしゃべれる人なら5分で1句作れます。せっかく句会ライブを体験するので、きょうは、自分が練りに練った句ではなく、全員が同じ立場で5分で1句、本当にできるのかどうかチャレンジしてみませんか? 俳句を長年やっている人たちも、さあ5分で1句と言われると、みなさん身構えてしまいます。いつもは全員が俳句をやっていない人、自分が俳句を作れるかどうかも分からなくてという人たち相手にやってるんですが、そういうやり方を握って、おうちの方とかご近所の方に「日本語をしゃべれる人なら、このやり方で5分で(俳句が)できるのよ」って教えてあげてください。これが身近なところに撒く俳句の種まきの一個です。

夏井 (句会ライブでつくる句は)手っ取り早く言えば、取り合わせを分かりやすく伝えるだけです。では、仮にこの人が俳句初めてだとしたら…(一番前の猿木三九さん、ステージに)。

夏井 お名前は

三九 猿木三九です。

夏井 では、三九さん、三九さんは、俳号はあるけど、俳句作ったことないと思っていると仮定してみます。ね。難しそうというのは、素人のあさはかな勘違いなのよ。ね。三九さん。俳句はたった十七音しかない上、季語入れないといけない。それに芸術として鋭い感性と豊かな語彙が必要。素人には「難しそう」という誤解があります。しかし、たった「五七五」しかありません。さらに、5音分ぐらい季語にとられてしまう。(前に座る猿木三九さんに向かって)たとえば、今の季節はいつですか?

三九 夏です。

夏井 夏だと分かっているだけで、既に才能があります。この会場に来るまでの空は「夏の空」。吹いていた気持ちのいい風は「夏の風」。5音です。これで俳句という文学作品の約3分の1ができあがっている。あとはあなたが、七と五で何かおしゃべりをすれば、夏の風という現場の中での一句が自然に成立する。あなたのどうでもいいようなつぶやきを、俳句という型が全部俳句にしてくれる。素人さんは、その段階で半信半疑だけど、確かに文学作品の3分の1ができあがっていることが、眼前にあるわけですから、信じ始める。

 
夏井 どこから来たんですか?

三九 札幌市です。

夏井 これがもう俳句の種です。「夏の風札幌市からやってきた」。質はともかく、五七五で季語がある。これで第一ハードルを跳ぶんです。三九さん、結婚してますか?

三九 もちろん

夏井 「夏の風もちろん結婚しています」。これで俳句です。プロポーズの言葉は?

三九 なしです。

夏井 「プロポーズの言葉は無いが夏の風」。質はともかく、しゃべる言葉で、五七五で季語があってというものになっている。つぶやきが俳句になることを、初めて作る人が知ると、刑務所の壁ぐらい高かったハードルが、がらがらがらーっと崩れる。次の段階に行きます。人生は、夏の風の気分みたいに、明るいことだけじゃないでしょ。暗いことつらいことがいっぱいある。つぶやきを思い通りに俳句にするには、ちょっとしたコツがあります。そこで、人生のつらかったこと、重かったこと無かった?―と聞くわけです。三九さん、悲しいこと、何かなかった?

三九 言うのをやめときます。

 夏井 「悲しい話はやめときます」。これで一つフレーズができたわけです。初心者はぴったり七五、五七になれば格好いいですが、だいたい七ぐらい、五ぐらいで、1音ぐらい多い少ないは気にしないで良い。このフレーズに、人に言えないような悲しみを表せる季語を探します。あとから季語を探す。三九さんの悲しさの度合いを表現してくれる季語を考えます。どの季語を選ぶかが、その人の恐ろしい個性の見せどころなんですね。「雨蛙悲しい話はやめときます」「青林檎悲しい話はやめときます」。青林檎だと、青春の酸っぱい、きゅーんっていう悲しい話になる。「蝉時雨悲しい話はやめときます」。こうなると、青林檎とはまた違ってくる。季語が変わるだけで、句全体がころころ、ころころ変わってくる。季語を変えるだけで、ストーリーも登場人物も作者の心理もこんなふうに変わっていくんだということに、大変驚く。五と七、七と五で何かつぶやく。その気持ち、思いのニュアンスを季語に託せばいい。これが一番ハードルの低い作り方なんです。

夏井 一物仕立ての句って、相当難しいでしょ。学校でやろうとすると、どうしても「チューリップみんな並んできれいだな」「向日葵にお日様にこにこ笑ってる」などとなってしまう。一物仕立ての句には、観察眼と言葉の選び方、表現力、どれだけ高いものが必要か。小学生に要求するのは酷というものです。学校で子供たちの十二音のつぶやきが俳句になっていって、それが例えば小学校6年間の自分史になっていく。ここからスタートしませんかっていうことを、実践したり、学校の先生にお願いしたりしています。五七のつぶやき、いい俳句の種を選んだら、季語がいい俳句にしてくれます。

夏井 今日のテーマは、「ちょっと悲しかったこと」です。最近でも何十年前でもいいです。それを五七で表現して、季語をくっつけます。このやり方を広げてくだされば、百年俳句計画となれば、倍々ゲームのように増えていきます。それでは5分で1句、この形で作ってみてください

★(参加者全員が5分間、作句)

 

●予選句を紹介

夏井 まずは予選句を読み上げます。その後、決勝句を選んで、みなさんに投票してもらいます。

★「夏木立俳句つくってといわれます」

 夏井 切羽詰まった何か。夏木立を取り合わせたところに、この人の表現行為がある。詩としての楽しさがある。「トクメイ」となってますが、これだけ軽やかに言えれば、むしろ才能があるのでは。この句の作者は誰ですか?

三嶋 三嶋と申します

 夏井 この句はどういうこと?

三嶋 飲み会とかで、俳句をやってると分かると「作って」と言われるんです。

 夏井 そういうときに逃げる俳句、いつき組では共通して持ってるんです。「ここで一句作ってください」って言われた時に逃げる句。最初の原型はチューリップ。「チューリップここで一句と言わないで」。これ一句覚えておくと、春夏秋冬、なにが来ても「夏木立ここで一句と言わないで」とか使えます。みなさん、使っていいですよ。
 

夏井 フレーズだけをつくって終わった人もいます。 

★「ことしはみれないものがある」

 夏井 宮之内(聰)くん、これはどうして?

 宮之内 季語入れてって指示してもらえるのかと思ってたら時間切れで…。

 夏井 ごめん。わたしが悪かったねえ。

 

★「三日間水が出なくて散る桜」

 夏井 何事ですか? 個人的なこと? 三日間水でなかったら、ちょっと悲しいじゃなくて、かなり悲しくないですか。鈴木淳子さんってどなた?

 鈴木 うちの水道が破裂して三日間水が出なくて。ここに来たかったのに、来れるとか来れないとか言っているうちに、うちの山桜が全部散ってしまいました。

 夏井 あなた、鈴木牛後さんの嫁ですよね? 嫁、才能あるんじゃない? 先ほど「私は俳句は作りません」って、ごあいさつしてもらいましたが、できてるじゃないですか。

 

 ★「運転をどうのこうのと蕗の薹」

夏井 これもね、よく夫婦であると思う。こういうのを俳句にすればいいんです。俳号が鏡湖さん。どっちが運転してるの?

 鏡湖 わたしです。周囲が(運転を)やめろと言うんです。

 夏井 蕗の薹はどうして取り合わせたんですか。

 鏡湖 我が家に生えていたので。

 夏井 なるほど。楽しいはずのドライブがけんかになることありますね。そんな時に、車の中でこれをつぶやくんです。「運転をどうのこうのと蕗の薹」と。言いたいことは伝えて、なおかつ人間関係は壊れず、さらに文学作品が残る。

 

 ★「お野菜の高騰破産かたつむり」

 夏井 あまりにもそのままですが…。そこまで破産するか!と思うんですが。三品吏紀さん。野菜が値段高くなったら、あなたが破産するの?

 三品 うち自営業で飲食店やってるんです。キャベツ100円のところが300円したりするんです。

 夏井 なるほど。それは言いたいよね。でも、お百姓さんにぶつけてもしょうがない。おてんとさんにぶつけてもしょうがない。それをどこにぶつけるか。結局はこうやって文学作品にするしかないんですね。所属のところに、結社名が書いているかと思ったら「食事処ひかり」って書いてあります。

 

★「人は人私は私毛たんぽぽ」

夏井 私の好きな句なんですが、季語がちょっと分からないので、知りたいんですが。

毛タンポポって何?

会場から たんぽぽのふわふわの~。

夏井 綿毛? 北海道では毛タンポポって言うの? タンポポの綿毛とは言いますけど。「人は人私は私」はすごくいい。でも、毛タンポポがちょっと分からなくて…。これは田湯岬さん。

 田湯 ダメだっていうことはまったく考えてなかった。綿毛になったタンポポ、毛タンポポとずっと呼んできました。

 夏井 これがあなたの代表句になって、人に知られるようになれば、一億総毛タンポポ時代になりますね。

 

★「コンドーム箱がからっぽ熱帯夜」

夏井 毛タンポポの横に、季語付けてない句がありました。子供もいるのにやめてくれよっていうのがあって…。こんなことを堂々とやる人がこの現場にいるんですね。この人の顔だけ見て、このコーナーを終わりたいと思います。山田なにがしって誰ですか。

 山田 はい。ちょっと悲しかった出来事です。

 夏井 今の場面は編集でカットします。山田なにがしに拍手をどうぞ。(山田航君でした)。他にもすごくうまくて、いいなあと思った句が幾つかあったので、ちょっとだけ紹介します。このあと決勝に残った句が出てくるんですが、決勝に残したかった句ですね。ご紹介だけします。賞品はありません。温かい拍手だけ。

 

★「ソーダ水ことばの刺(とげ)の抜けぬまま」

 夏井 ソーダ水が軽やかね。名取光恵さん。

★「指の傷まだ生乾き黄砂降る」

 夏井 指の傷に黄砂がかかると、生々しいね。平尾知子さん。

★「黒ペンのインクが切れて日の盛」

 夏井 最後、日の盛が入ることで、黒ペンの色が鮮やかになるし、切れたっていう瞬間もいいですね。後藤あるまさん。

 後藤 今書いてて切れました。

 夏井 ああ、だから赤で書いてるのね。インクが切れたことも俳句の種ですね。こうすると、人生悲しいことはありませんね。

★「夏の風いつもどこかに有る孤独」

 夏井 この人にちょっと悲しいことは、いつもどこかにある孤独である。なんてかっこいい人がいっぱいいるんでしょうね。酒井おかわりさん。あ、一番最初に出した人ですね。夏の風にしたのは何でなの?

 酒井 悲しいことと言われたから、逆に、さわやかな季語のほうが俳句になるかなって。

 夏井 俳句何年やってるの?

 酒井 2年ちょっとです。

 夏井 2年ちょっとで、そんなかっこいいこと言えるって「才能アリ」ですね。今言ってくださったことが、最後に季語を取り合わせる時のコツの一つでもあるんです。三九さんを相手に最初やった時は、自分の気分に合った季語を探してくださいって言いましたよね。気分に合う、似合ってる季語。でも、それをそのままやると面白くない時、ちょっと軸を変えるやり方もあります。孤独という言葉に対して、夏の風という気持ちのいい季語を持ってくることで、いつもどこかにある孤独というフレーズを際立たせる。初心者に、逆のパターンもあるよ―なんて教えてあげると、季語の選び方に幅が出てきます。

 

★「考えの堂堂巡り夏の蝶」

 夏井 長谷川忠臣さん。いいですね。夏の蝶を持ってきたのはどうして?

 長谷川 蝶はふわふわして、気持ちよく見えるんだけど、何句俳句つくっても、堂々巡りしてダメだなーっていうのが、いつも悲しいんです。

 夏井 こういう謙虚な人にこそ、俳句の神様がほほ笑んでくれると思います。

 

★「尾を濡らす犬の目の色リラの闇」

 夏井 リラだけじゃなくて、リラの闇、闇っていう言葉が来る。渋いですよねー、かっこいいですよねー。え? 五十嵐秀彦。名前よく見てなかったので、ビックリしました。さすがじゃないですか。お兄さん。いやあ、ちょっとかっこよかったなあ。

 

★「土曜日は正午に起きて猫の恋」

 夏井 こういう若々しい猫の恋もいいですよね。これはたぶん、ご本人が土曜日は正午にむっくり起き出して、夕べの続きの猫の恋が続いているような感じでしょうかね。宮川双葉さん。高校何年生?

 宮川 3年生です。

 夏井 俳句甲子園は?

 宮川 2年生の時に1回だけ。今年は3年生1人と2年生3人と1年生1人です。

 夏井 松山で待ってますからね。応援の拍手どうぞ!

 

★「死がい突く鴉の眼夏の昼」

 夏井 死がいをつつく鴉の眼、それは夏の昼である。アスファルトの匂いと死がいの匂いと鴉の生臭い感じと。恐ろしいですね。たかが言葉で描いているだけなのに、自分の脳の中で単純な情報じゃなくて、匂いとか生臭さとか蘇ってくるところが恐ろしいですね。藤原文珍さん。これ、どうしたんですか。

 藤原 通勤途中であったものですから。いつも歩いている川沿いで、たまたまハトをつついている鴉がいまして。

 夏井 うわあ。それでじっと観察した?

 藤原 通り過ぎるときに、鴉と目が合って。

 夏井 鴉のほうは「おまえにはやらないぜ」みたいな。こういう一瞬見た嫌だなと思った光景も、言葉にすると文学作品になるわけですよね。

 

★「微熱なかなか下がらないアマリリス」

 夏井 これは五七五のリズムをわざと崩してるわけですね。この崩れたリズムが微熱がなかなか下がらない不快感みたいなものを表現していますね。アマリリスっていうのが良いですね。幹とかスコーンと簡単に折れたりするんだけど、ちょっと立っている存在感はありますもんね。これは栗山麻衣さん。

 栗山 父の具合が悪くて…。母からメールが来るので、ちょっと気になってて。リズムを崩して表現しようときちんと考えていたわけではなく、季語をフレーズのうしろに付けるのかと勘違いしてたので、最後に付けました。

 夏井 アマリリスを選ぶところに、センスと表現行為があります。お見事でした。

 

★「返事なし面接結果サングラス」

 夏井 これはサングラスが微妙に楽しいですよね。サングラスかけて面接に行ってるような感じもするし、誰かに結果を聞かれたくないから、サングラスかけて、チョロチョロしてる感じもする。俳句ってこれでいいんだなと思います。及川真さん。そんなうれしそうな顔してますが、どういうことですか。

 及川 娘がね。面接行って、サングラスで帰ってきたんで、分からなくて。

 夏井 面接行ってサングラスかけて帰ってきて、ああ、またダメだったか…って感じ?

 及川 そうですね

 夏井 家に帰って、娘にこの句で入賞したんだとか言えないですね。

 及川 言えないです。

 夏井 言えないけど、家族史の1ページには残りますよね。そして、いつか就職できた時に、あんとき、お父ちゃん、心配してなあ、テレビの怖い先生がちょっと悲しいこと書けっていうから、思わず書いちゃったんだけど…みたいな。娘さんの就職が叶いますように。みんなで大きな温かい拍手を。

 

●決勝7句を議論

夏井 ほかにも面白い句はたくさんありました。片っ端から紹介してもいいんですが、それやってると、わたしたち今日帰れなくなってしまいます。句会ライブが初めてという人がほとんどだと思います。これから、夏井と五十嵐さんが選んだ7句が出てきます。その前に、句会ライブの大切なルールを説明します。普通の句会は自分の句を選んではいけませんが、句会ライブでは、自分の句だと言わないように、自分の句を選んでも良い。(決勝句の)順位は、出席している人の総意で決めます。多数決ですが、みんなで議論します。俳句は、作る力と鑑賞する力が、車の両輪のように大切です。バランスを取りながら上手になる。人の感想を聞いて、これも良い、あれも良いとゆらゆらする中で鑑賞する力がつきます。

ただし、議論の中で感想を求められて、「自分の句だ」とばらした瞬間に失格になります。もし、決勝句に自分の句があったらどうするか。自分の句と言わないように注意しながら、何でもいいから平然とほめまくる。日本で初めて失格になったのは三重県の小学校の校長先生です。今日、失格者が出たら日本で6人目の失格者になるので気を付けてください。自分の句があっても平然としていてください。今日のテーマは「ちょっと悲しかったこと」です。準備OKですか?
 
 

①「あの人とまさか逢ふとはラベンダー」

②「千円札端がちぎれてソーダ水」

③「左目のみ生きる野良猫夏の扉に」

④「扇風機むけば崩れるゆで卵」

⑤「発句なんかやってらんねえ栗の花」

⑥「よく挫く右の足首雨蛙」

⑦「日曜の当らぬ馬券ソーダ水」

 

夏井 俳句を詠むには二段階あります。まず、俳句の意味を捉える。次は鑑賞。読み解いて膨らませていくことが大切です。5分で作ったにしては、みなさん意外と面白いですね。それでは好きな句を聞いていきます。手前におられる女性、どうですか?

A子 ⑦の馬券の句が好きです。当たっていないこととソーダ水の泡とがあっている。

A男 季語の響きが、当たらなかった、泡と化したという感じが出ている。

B男 腹立った後にすっきりした感じ。泡と消えて、まあいいやこれでという感じがする。ビールではなくソーダ水がかわいらしい。

 

夏井 これ以外に好きな句がある人はいますか? おっ若者。高校生が手を挙げています。

男子生徒 ②の千円札の句が良いと思いました。現実にはないですが、お札の端だけでソーダ水を買える値段があると思いました。

C男 ソーダ水を頼んで、ポケットから丸まった千円札を出したら、ちぎれていた。なんとも悲しい気がする。若いときに経験があったような気がします。

B子 ちょっと悲しい出来事の範畴。1万、5千円札だと、季語が変わると思う。小さな出来事をソーダ水に乗っけるセンスが、この句を詩にしたと思います。梅雨曇りだとだめ。ソーダ水が主役になっている。

 

夏井 おっ若者が、また来ました。ここでマイクをとって話さないと俳句甲子園では負けますよ。

男子生徒B ⑤の栗の花が良いと思いました。栗の花は見たことがないけど、栗のイガのイメージ、痛くて、やってられるか―という感じが良かった。

D男 口語体のなげやりのが好き。栗の花って、青臭くて嫌な匂い。毒々しい季語で、風流のかけらもない所が好きです。

E男 栗の花の嫌な匂いと、呟きが合っている。

夏井 最後の季語の選び方、悩みますね。ソーダ水だと憤りが感じられない。

 

F男 ①の句(あの人との)が良いと思います。ちょっと悲しいがテーマでしたよね。会いたくない人に会ったのか。会社の人なのかな。

G男 これは昔の初恋の人かな。会うと悲しい思い出の人。だからラベンダーではないんでしょうか。

H男 恋の歌のようです。好きな人と会ったけど、彼女か彼氏かを連れていて、なんだ、彼女いたんだという感じ。

夏井 今の話を聞いても、それぞれドラマが違ってきていますね。

C子 元恋人で、別れて何年もして、幸せそうに家族連れている感じです。

夏井 お~ドラマに仕立てますね。人の句だけど、これだけの解釈がある。ラベンターという季語を選んでいるが、読み手によってこれだけ違う。これで作者が話したことが、正解になるわけではなく、いろんな鑑賞が出ることで文学作品として豊かになっている。たまに、作者が、みんなの解釈をたたきつぶす人がいますが、それはそれとして、鑑賞とのギャップがあることが豊かなんだと受け止めてもらいたい。

 

夏井 それ以外にありますか?

A美 ⑥のよく挫く―の句がいいです。心当たりがあると思いますが、俳句の種を探しに、いろんなところを見ていると転びそうになる。小さな切ない感じが出ている。

B美 私も挫いて、昨年のGWに足の指を骨折しました。段差が計算できなくて、挫いて折れてました。ぬめっとしていて、挫かないようなカエルさんとの対比もいい。

夏井 蛙の使い方がどう読み取れるかですね?

A介 カエルはジャンプのチャンピオン。足を挫いたときには,カエルがうらやましいと思う。

B介 ジャンプのチャンピオンが挫いたら、そこで終わり。もっと鍛えるべきではないかと思う。

C介 雨蛙って足首があったかなあと思って、面白かった。

夏井 雨蛙が挫いたと私が挫いたという二つの意味が取れますね。

五十嵐 挫いたのは本人ですよ。雨蛙がいる場所なら、水田や竹林などで、挫いちゃったという感じが出てくる。そのときに雨蛙が鳴いている、風景の句だと思った。

夏井 きれいにまとめてくれました。あと出ていないのは③野良猫と④扇風機の句です。好きな人いませんか?

D介 野良猫に何となく片目でもそれでも生き続ける。無頼派の匂いがした。強く生きていく、だれにも頼らず生きていくというのに惹かれた。扉の前で待っているが、完全には心を許さない。

E介 右目が死んでいる。体全体が弱々しいかもしれない。ちらっと振り向いて見たら、左目だけ生きているとのいうイメージ。でも、精神は生きている。外から見るとその生き様が悲しいという感じが良いと思った。

C美 今の話を聞いて、考えが変わりました。深く考えてなかったけど、無頼派と聞いて、素浪人みたいな感じ。格好良くて、悲しい感じがいいですね。

夏井 それがあなたの男の好みでしょ。人の考えを聞いて、考えが変わるのが句会ライブの大事なところです。最初に良いと思った句にしがみつく必要はありません。今までの話で考えが変わって人はいませんか?

D美 夏の扉という季語が、これからどんどん厳しい夏に入るときに、毅然とした猫の生き様のようなものを、これまでの話を聞いて感じ取りました。

 

夏井 さて、今までの話で地殻変動が起きるのか? ラベンダーがいいのか。ゆで卵はどうですか?

A輔 ほかの句と違って、季語を上に持ってきている。作者の反発心を感じた。〝ちょっと〟悲しいというテーマに沿っている。すごく悲しくはない。目立たない句だが、渋さ、季語の使い方などがすばらしいと思った。

夏井 人生をまったく左右しないちょっとした悲しさ。今の意見で、また考えがぐらついている人がきますよ。

B輔 熱くてだるい、料理も面倒くさいくて、ゆで卵でいいやと。おざなりに茹でてしまった。その時に悲しいと思う。

C輔 北海道でもおしゃれな家にはクーラーがあるが、扇風機は少し貧乏くさい。貴重なタンパク源であるゆで卵を大事に食べようと思ったら、崩れた。ちょっと悲しい。

D輔 扇風機が回ってきて、扇風機が向けば、卵が崩れると詠んだ。

E美 扇風機が向けばと読める。ちょっと悲しいというのは、ゆで卵は、私もよくやるので共感しました。

夏井 ゆで卵でここまで熱く語りました。字面がこうだと、ひらがななので、扇風機『向けば』とも読める。言葉のからくりが見つかるとみんなで笑える。作者はそんな詠み方ときょとんとしているかもしれない。こう言い合いをしていると、どの句がいいか迷っている人が多いと思います。

F美 全部迷っています。扇風機は意味が分からなかった。最初は『向いたら』と思ってけど、『剥けば』と思えば、惹かれる。千円札の句とも迷っています。

夏井 迷っているのはいいのですが、そろそろ多数決の時間です。一つだけしか手を挙げられませんよ。
 

 ●挙手により多数決


    「あの人とまさか逢ふとはラベンダー」  24票

    「千円札端がちぎれてソーダ水」      6票

    「左目のみ生きる野良猫夏の扉に」    25票

    「扇風機むけば崩れるゆで卵」      47票

    「発句なんかやってらんねえ栗の花」    6票

    「よく挫く右の足首雨蛙」        15票

    「日曜の当らぬ馬券ソーダ水」      15票

 

夏井 残り時間を使って、私が解説をします。作者を発表するときは作者だけが立って下さい。小学生相手だと、人の句を応援しているうちに興奮して自分の句だと思って、優勝の人どうぞというと、小学3年の男の子が3人くらい立つことがある。それで本当の作者はだれかと思ったら、全然違う女の子だったりする。自分の句をすっかり忘れる人もいるので気を付けてください。

 

②「千円札端がちぎれてソーダ水」

夏井 本当にちょっと悲しい話。1万円、5千円札だと思ったら季語が変わるのではないか。ソーダ水の季語に乗っけたセンス。ソーダ水は明るい季語、ちょっと悲しい季語をクローズアップしている。作者はどなたでしょうか、お立ち下さい。

瀬戸 南幌町から来ました瀬戸優理子と言います。ちょっと悲しいことを思って作りました。私は、端がちぎれたお札ってときどき当たります。早く使いたいので、喫茶店行ったら、ソーダ水を子供に飲ませて、「よし、ほかのところ行くか。(次は)いい千円札来い!」みたいなそんな感じです。

夏井 小さな出来事、子どもにソーダ水を飲ませながらというと季語がいいと思う。

 

⑤「発句なんかやってらんねえ栗の花」

夏井 栗の花という季語を持ってくるところが手練れです。季語がどうかわるのかによって、熟練度が違うと思います。栗の花の怪しさ、いたたまれない気持ち。俳句というエリアでどんな思い、鬱憤を持っているのか。

松王 松王かをりと申します。俳句の沼に足を取られてしまった鬱憤を、思春期の男の子の口を借りていってみました。

 

⑥「よく挫く右の足首雨蛙」

夏井 最後の季語が悩まれたと思う。雨蛙と入った瞬間に、また挫いてしまった、あわてんぼのわたし・・・と言うのと同時に雨、蛙という場所、場面が見えてくる。ちょっと悲しい出来事という点では、ゆで卵、千円札よりは悲しみは上がります。雨蛙と季語が表情を添えてくれる。

青山 青山酔鳴です。わたしのことを知っているひとなら、よく転んでいるのを知っていると思います。

 

  「日曜の当らぬ馬券ソーダ水」

夏井 同じソーダ水ですが、こちらのほうが意味との関連がある。泡となった、意味としての関連が気分的に出てくる。お父さんまた負けたのかという家族の目線という気もする。ビールではなくソーダ水というところがかわいい。

ふじもり ふじもりよしと、と言います。先週、ゴールドシップが勝ってしまった。馬券は買っていませんでした。馬に餌を売る職業なのですが。当たらないですね。

 

  「あの人とまさか逢ふとはラベンダー」

夏井 私が説明するよりは、作者が出てきて、物語を確定されるほうが面白いかもしれませんね。

松原 松原美幸と申します。せっかく美しいラベンダーを見ているのに、会いたくない人と目を合わせてしまったら、ほかのことがゼロになってしまう。そう思って作ってみました。上司ではないですが。

 

  「左目のみ生きる野良猫夏の扉に」

夏井 最極端が1、2位になりました。凄惨な表情で、片方の目が抉り取られている猫のイメージとして読んだ。夏の扉の納め方にびっくりしました。夏という季節の扉がまだ開かれたばっかりというイメージも添えたかったのかもしれないですね。

進藤 進藤芙蓉です。最後の1分間で季語をどうするか迷いました。

 

  「扇風機むけば崩れるゆで卵」

夏井 今日の優勝が、もっともどうでもいい悲しさ。これを一番面白いと思うのが【itak】の風通しの良さと思います。

鈴木 鈴木牛後といいます。三日間、水が出ない日があったんですが、ゆで卵を剥いたら、くしゃっと崩れた。手を洗おうと思ったら、水が出なかった。

夏井 (予選句で)水が出ないという妻の句も選ばれましたね。どうでもいい悲しさと言いましたが、三日も水が出ないのは確かに悲しい。腑に落ちました。
 
 
 
 夏井 普通に句会を行う楽しさもあれば、こんなふうにみんなで語り合う楽しさもある。そのことを、お伝えできたらうれしいなと思います。また、どこかで句会ライブ、ご一緒できたらうれしゅうございます。今日はありがとうございました。

☆抄録 久才秀樹(きゅうさい・ひでき 俳句集団【itak】幹事・北舟句会)
      栗山麻衣(くりやま・まい  俳句集団【itak】幹事・銀化、群青)



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