2014年10月17日金曜日

『ムッシュが読む』 ~第15回の句会から~ (その1)


『 ムッシュが読む 』 (その1)
 

~第15回の句会から~
 


恵本 俊文
 


 車椅子日和と妻が言ふ晩夏   橋本 喜夫


足となる車椅子。盛夏なら灼熱の太陽が照りつける地面に近いうえ、タイヤに付いた金属製のハンドリムも熱され、腕で回すのは難儀だろう。
幾分過ごしやすくなった晩夏を「車椅子日和」と言った妻。「お散歩日和」と言いたかったのかもしれないが、わが足は車椅子。外出したい、外気に触れたいという思いは、生きている証の一つでもある。日々いたわってくれる夫を思いやっているようでもあり、夫婦の愛情は切なくも温かだ。


 秋晴れや秒速一歩ずつ歩む   今井  心


清々しい秋晴れの日。クオーツ時計が秒という時を刻むように、一歩が秒を刻む。一見早そうだが、思いのほかゆったりに思える。右、左、右、左と規則正しく歩を進めたくなるような、澄んだ秋空なのだ。「一歩ずつ歩む」と歩を重ねる表現は、大地をしっかり踏みしめている感が伝わるけれど、ややまどろっこしい気もした。


 宿題は鈴虫の餌替へてから   内平あとり


ものごとには順序がある。それは人それぞれだ。実体験からすると、宿題は最もあと…というより、後回しにしたいもの。飼っている生き物の世話は、初めのうちは進んでやっていたが、日が経つにつれ家族任せになってくる。宿題と餌替えの順番は、ぼくにとってはどちらも後回しのカテゴリーで、大差ない。強いて言うなら、宿題がより後か。そんな、遠い小学生だったころを思い出した。
小さないのちを大切に思う素直な心の持ち主が詠んだなら、ごめんなさい。


(その2に続く)


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