安藤 由起さんの群青第5号の10句の中から3句を選びました。
足だけがビアガーデンに到着す 安藤 由起
控へ目に深紅まとひて夏の宵
薔薇ありぬ此の世にかくも落ちぶれて
控へ目に深紅まとひて夏の宵
薔薇ありぬ此の世にかくも落ちぶれて
1句目の句。
本当はあまり乗り気になれないが、行かねばならないビアガーデン。というところだろうか。
ビアガーデンと言うところは、仕事帰りに「行こう、行こう~!」 という気分で向かうのが一般的かと思うが、
掲句にはそれほど前向きなものはない。どころか足だけは義務的に向かうものの、心は何処かに置いてきたようだ。
そう思って読むと、10句の中に幾つかそれ系( reluctant系というか)の句に出会う。
2句目の<控え目にまとひて>という表現の中にも積極的ではない心の向きが感じられる。
しかし、ドレスの色は深紅である。控え目にまとふのは難しい。
そしてもう1句。
3句目の薔薇ありぬ。
薔薇色の人生という言葉もあるくらいだから、華やかさの象徴の様な花である。それが<かくも落ちぶれて>この世にあるという。
ここにもやはり真っ直ぐな、肯定的な上昇志向の矢印とは別な方向の矢印を注視する作者の眼差しがある。
ビアガーデン、夏の宵(深紅をまとひ)、薔薇。
華やぎの裏側を見つめる句に作者の俳人としての資質を感じる。
日本語にはしぶしぶ、やむなく、不承不承など内面の感情が対面する状況と相反する時に使う言葉が幾つもあるが物事を率直に言うといわれている英語にもこれらに相当する言葉は少なからずある。
reluctant ・・・したくない、気が進まない( 内心の抵抗を暗示する語とある)
unwilling いやいやながらreluctant以上に強い抵抗を暗示する。
hesitant 躊躇する、煮え切らない 等。
気持ちが真っ直ぐに進むのだけが人の心の動きでないことは自明であるし、詩や俳句もそのあたりからふっと生まれるのかもしれないと改めて思わせられた。
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