2014年5月6日火曜日

『あまい!!!』より山田耕司を読む ~青山 酔鳴~



ネットプリント俳句同人誌 『あすてりずむ』でおなじみの小早川忠義氏の編集・発行による『あまい!!!』をダウンロードしてきた。

薔薇を背負ったベルサイユな装丁に、これまで『あすてりずむ』に参加している金子敦(ラスカル)氏と、新登場・山田耕司氏の各十句が並んでいる。わざわざ『あまい!!!』とロゴを打たなくても十分甘くね?くらい思いながら拝読。ふむふむ踏む踏む。よろしい甘さ。甘さのダブルトールラテ(実はスタバとかよくわかっていない酒呑み)。

ネットを拝見する限りラスカル句に関する記事は結構多いと思われるので、天邪鬼な酔鳴としてはオートマティックに山田耕司句を読ませて頂こうと思う。


評に有りがちな曲解があるとは思うが、作者・編集者等関係者各位には寛容な心で受け止めていただきたいと平に平に願う(先に言っとくけどごめんなさいってことですよ~♪)。


 服を着て逢ふほかはなし宵桜


宵桜じゃなくても外に行くときには一般的に着衣。当たり前っちゃ当たり前。なのについてる「ほかはなし」。ここに切ない大人の恋を見なくてあなた、いったいどうしましょ。桜の香りには麻薬成分があるといわれるが、恋する心に尋常というものがあってもまったくつまらない。アカシアでも連翹でもなく、宵桜。恋とは見るものではなくするものである。


 つちふるやたて線上のここは臍


この臍、若い。だって「たて線上」だもの。経年でこの器官は結構な確率で、経度方向に向きを変える。こりゃもう脱いでる脱いでます。裸のマハbyフランシス・デ・ゴヤ。「つちふる」を持って来て、線に子午線を思わせて、地理的要因をカモフラージュしているけれど、これはスッキリとした臍を露出させた様を詠っているのだ。個人的には背骨も好きだ、下の方。


 この桃をひでおと名付くひでお剥く


名前を付けてから剥くなんて相当に悪趣味な。だいたい桃は女性っぽいのに「ひでお」と名付けて。BL俳句ってやつですか。いや、ひでおを剥いているのは女かもしれないけれど。皿にもとらずに剥いたひでおをがぶりじゅるじゅるとくちに運ぶ。ここにもやはり逃げ切れないエロスがある。あるいはサトゥリュヌスの大口が(またゴヤか)。


 卵黄は背泳ぎなりや春深空


卵を割ると卵黄に胚が見える。卵白の海を背泳ぎでいくや卵黄。青を深める春の空。もの皆活き活きとし、生命力に溢れる季節。卵も牛乳も、春になると一段と旨さを増すものだ。滋養と強壮は恋に不可欠なものであれば、やはりここは基本の卵。おふたりでたんと召し上がれ。


 ゆく春の乳首吸ふ歯のたてごこち


万緑には早いが吾子の歯生え初むるかんじである。春爛漫。て。そんなわけないでしょ。この乳首はたて線上の臍のひとの乳首でなくてはならない。詠んでいるのは歯の持ち主である。十句並んでいることで、この句も直球にセクシャルである。その胸の丘の個性によって歯のたてごこちはまったく違うのだろうな。ゆく春。夏にもこの恋は続いているのかな。



今回はじめからしまいまで、山田耕司氏がさらりとならべたものについて、わたしは「エロ甘」と名付けたい。耕司句のもつエロ甘さ加減。今般上梓の『エロティック・セブン』などにも通ずるウェット感。水をたらしたら濁るスピリッツのように、じわじわと脳内を侵食する。この甘さ。この苦さ。この粘性。わたしは軽い中毒性すら覚えてしまう(彼の十句にウットリ来たそこのあなた。嗜好に問題があるかもしれません。あと、一番気に入った句は内緒)。



ラスカル句については良菓の甘さを湛え、いつもながらの優しい味わいもある。そうであれば、この酒嚢飯袋である酔鳴が読まずとも、優しく明るく上品に読んでくれるひとが別にある。甘味は酒で摂りたいわたしには耕司句の苦甘さこそが心地よいのである。



☆青山酔鳴(あおやま・すいめい 俳句集団【itak】幹事 群青同人)



*追記*

やっぱりラスカル句も読ませていただきます(^^;えへへ。


 朧夜のゲーム画面に経験値


まだ若いころ、春先の慌ただしい時期に当時の社長と喧嘩になったことがある。稼ぎ頭に無理難題我儘放題で納得のいかないことが続いたので堪忍袋の緒が切れた。
繁忙期だったにもかかわらず無断で会社を3日あまり休み、テレビの前に布団を引っ張り出し、寝るまでゲーム醒めたらゲーム、食料はスルメと缶ビール。信長の野望と三国志とパルテナの鏡だったと思う。電話には出ない。当時は携帯もなかったし。
ずっとテレビゲームをやっているともうなんだか夢とうつつの際がわからなくなって、脳味噌がすべてぼんやりとなってしまった。人間自分で馬鹿になれるもんだね。
この句を読んで思い出した過去の出来事は今ではもう懐かしいけれど、「経験値」というものが常にプラスに働くとは限らないことも多い現状など、少しく身につまされ、まさしく朧夜のようなもの、近眼乱視の眼球ではさらに激しくぼんやりと・・・。
ひとり親方の今はもう、ゲームに逃げて経験値を稼ぐこともできないよ。
そういえばラスカル句としては今回の十句はややビターかもしれない


※『あまい!!!』より金子敦を読む ~久才透子~はこちら


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