2014年1月7日火曜日

照井 翠  句集『龍宮』 一句鑑賞 ~岩本 茂之~


句集『龍宮』の一句鑑賞

岩本 茂之
 

 三・一一神はゐないかとても小さい          照井 翠


勤務地の岩手県釜石市で東日本大震災に遭遇した高校教諭の作者。
句集は津波の被害者への鎮魂の気持ちを表したもので文学界でも話題になったものだ。
照井さんは「あとがき」に次のように記している。

「戦争よりひどいと呟きながら歩き回る老人。排水溝など様々な溝や穴から亡骸が引き上げられる。赤子を抱き胎児の形の母親、瓦礫から這い出ようともがく形の亡き骸、木に刺さり折れ曲がった亡骸、泥人形のごとく運ばれていく亡骸、もはや人間の形を留めていない亡骸。これは夢なのか?この世に神はいないのか?」

掲句はまさにそうした作者の絶望感を素直に詠んだものだ。
「神はゐない」だけでなく「とても小さい」のだ。
それは地獄を眼に焼き付け、被災地で生き続ける作者の実感に裏打ちされた言葉であり、とても簡単な言葉で構成されながらも非常な強度を感じさせる。

神は小さい――。神の概念は人それぞれ実に様々だ。私は地球は人間が想像した神をも超越した巨大な存在なのだと感じる。
だから地球は時に平気で私たちを裏切る。私たちの限られた人知など遥かに超えて...。


ところで札幌芸術の森美術館で今、「札幌美術展 アクア‐ライン」展が開かれている(2月16日まで)。
14人の美術家たちが「水」をモチーフにした作品を出展しているのだが、その中に異色の作品がある。
山田良さんのインスタレーション「海抜ゼロメートル/石狩低地帯」だ。
美術館の屋内に高さ2メートル、幅60センチの廃材で組んだ桟橋を総延長25メートルにわたって組み立てたものだ(実際に歩ける)。
40万年以上前、この桟橋の位置に海水面があったことを伝えるのが、美術家の意図するところだそうだ。つまり札幌を含む石狩平野は海の底にあったのだ。夕張山系の山の中からアンモナイトの化石が取れるのだから当然と言えば当然だが。

繰り返すが、地球は時に平気で私たちを裏切る。私たちの限られた人知など遥かに超えて...。
なのに3・11から3年もたたないうちに、私たちは同じ過ちを繰り返す道を歩んでいる。



☆岩本茂之(いわもと・しげゆき 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)



照井 翠 句集『龍宮』 角川書店
http://www.kadokawa.co.jp/product/321306000185/




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