2013年4月20日土曜日

第3回週俳十句競作・落選展 句評(1)  久才透子


第3回週俳十句競作・落選展 句評(1)  久才透子

先日の「週間俳句十句競作」に、俳句集団【itak】の幹事5名が作品を応募しました。
同じ会から5名もの参加は他になく、意欲的でとても感心しました(と、他人事の様
に……ゴメンなさい)
私も出してみようかな~と思いましたが、10句揃えられず断念しました。
自由に誰もが参加できるのは素晴らしいですね。楽しく拝読しました。
気になった句、好きな句について、少しお話させていただきたいと思います。




冬麗や ami 泣き暮れて鶏姦す
祝祭の歌を並べて鞭の冬
銀竹のなかで飼われてゐるをんな
雪しまく乳房は堅くなりにけり
三つ年はつづかぬ恋慕冬の闌く
仏手柑エロ本のフィストの容
荒浪にわたくしの一部は勇魚
剥ぎとれば縄を秘めたる皮裘
たちんぼのピアスの凍ててゐる数多
ひとにまた茎のありけり蕗の薹

早川純子 (はやかわ・じゅんこ)



意欲作だと思う。
読んでいるうちに、一枚ずつ写真を見るような感覚になった。
モノクロの写真に、季語の部分だけがカラーになっている、そんな美しい写真。
それぞれの句に、湿度や温度を感じる。
そして、全句に通じる「痛み」のような感覚。

「たちんぼのピアスの凍てている数多」


寒い夜に外に立っていると、ピアスがキンキンに冷えてきて、耳朶から凍りつきそうになる。
あの、耳朶の疼痛感覚とたちんぼの痛々しさ。
性的な言葉も多くつかわれている。
知らない言葉も多く、検索したり調べて、その度に知識が増えた
(ウブなふりをしているわけではありません)。


 


失職日


テーラーの鋏よく鳴く寒夜かな
生き辛き人攫い行く雪女
雪まつり母国語探す龍の像
八歳の私が見えて雪眼鏡
鬼やらい犬の瞳に星落ちる
シュレッターの音姦しや春立ちぬ
泡雪を舌にのせてる失職日
極太の雪の日となり久女の忌
父母が嫌いで親王雛に傷
あうあうと終いの冬を食べている

高畠葉子 (たかばたけ・ようこ)



先日、田辺聖子の「花衣ぬぐやまつわる…」という評伝小説を読んだ。
俳人、杉田久女のことが描かれている。ひたむきに俳句と向きあいながら、
無理解な夫にも、当時の社会にも認められることなく、冬の日に逝った久女。

 
「極太の雪の日になり久女の忌」
 
久女について書かれた本を読んでからこの句を読むと、
胸にグッとくるものがある。
(ちなみに、私はこの本を読んで高浜虚子がだいぶ嫌いになりました)


「雪まつり母国語探す龍の像」

 
 
母国語、という言葉も何だか切ない。
いくつになっても、人は皆、自分の根っこを探しているような気がする。
10句の中には、作者の幼少期から失職したつい最近までの歴史が見え隠れする。
現代は、久女の時代より生きやすいのだろうか。
女性に対する理解は深まっているのだろうか。


 

モヨロ人


軒氷柱うな垂れ歩く去勢犬
流氷の底に隠れしモヨロ人
凍裂の音と遠くの交通死
へそ曲がり箒で正すカーリング
公魚や光の穴は地獄行き
冬ばん馬野次も怒声も念仏に
地吹雪や演歌二人のどさ回り
雪しまく庭真っさらにカレーそば
氷海を追って知床岬かな
氷瀑やだーるまさんがこーろんだ

久才秀樹 (きゅうさい・ひでき)




作者は私の夫なので、なんだか書きずらい。
いや、そんなことは脇においといて、書きすすめます。

今、司馬遼太郎の「オホーツク街道」という本を読んでいる。
アイヌ民族以前に、北海道のオホーツク地方に暮らしていた人々。
網走にある遺跡「モヨロ貝塚」を遺したモヨロ人。
現代のオホーツクに暮らしてみて、青みがかった氷に包まれた冬の海を目にすると、
この地で生きてきた人々の歴史や過酷さに、どうしても思いを馳せてしまう。
氷の世界を句に詠みたくなる気持ちはわからないでもないけれど。


「凍裂の音と遠くの交通死」

凍裂の音を実際に聞いたことはない。
でも、静かな冬の夜、不穏なタイヤ音が遠くにかすかに聞こえた時。
その不安感は、人知れず氷に裂かれる木の悲鳴を彷彿とさせる。


その時

 
双の手に降りては死ぬる春の雪
俎板に秒針重ね打つ根深
念仏よりジャニスの啼きて夜半の夏
その時は青葉のころと転移癌
ちちははと口閉ざしをり蜆汁
月に往き月に還りしをとこをり
青ぬたの味に小僧の成人す
水鏡の天を駆けをり水馬
古傷は化石となりてラムネ玉
薔薇愛でる配管工にある疑惑

三品吏紀 (みしな・りき)



作者は、若き俳人、そして料理人である。酒や音楽にも詳しい。
学生時代は俳句に無縁で20代後半で俳句に目覚める人というのは
柔軟な心を持っていると思う。

「俎板に秒針重ね打つ根深」


男性料理人ならではと思う。
家族のためだけに料理を作っている人には詠めない様な気がするのだ。
料理や食べ物の句を男っぽく詠むってかっこいい。


「ちちははと口閉ざしをり蜆汁」
 
 
蜆はすっかり口を開けて、美味しい出汁をだして
くれてるのに。三人で囲む蜆汁はどんな「その時」の中なのだろう。
ご両親を見つめる作者の眼差しが切ない。


 


親しき水
 
真白とは息子でありしころの雪
雪の灯を過ればうつし世の匂ひ
かつて家ありし雪野のふくらみに
雪に足突つ込んだまま手を振れり
あいさつも雪の色なり雪を来て
ぬばたまの雪夜語りてながき人
雪の嶺に雪の層なす眠りかな
こな雪のすきますきまに青の粒
こな雪のこはれやすさをてのひらに
それぞれの手に融け雪は親しき水

鈴木牛後 (すずき・ぎゅうご)



10句とも雪の句である。
作者の住んでいる町は、北海道でも豪雪地帯と言える。
今冬の北海道は豪雪地帯以外も雪が多く、除雪作業で悲鳴を上げる人がたくさんいた。
白銀の世界はもう、うんざり…という声が多いこの年に、雪に対する優しい眼差し。
雪国での生きていくことへの、穏やかな覚悟。
そして、雪国で生きてきた、ということ。

「それぞれの手に融け雪は親しき水」


この句がとても好きだ。
どんなに降り積もっても、春がくると雪はとける。
雪は親しき水となって、隣にいる人、遠くにいる家族、あらゆる人の、
次の季節へとつながってゆくのだ。



(了)

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