句集『無量』の一句鑑賞
恵本 俊文
2013年12月29日夜。
東京、新宿のゴールデン街にある「裏窓」という店にいた。
故・浅川マキさんの曲名を店名とした狭い店内には、 マキさんが使ったヤマハのアップライトピアノが置かれている。 この日は、 マキさんとの共演も多かった渋谷毅さんのソロライブが開かれた。
「夕凪」が織り込まれた一句。マキさんの「夕凪のとき」 という曲が思い浮かぶ。ぱったりと風が止むとき、 命あるすべてのものがこときれる。いや、命なき無機物までもが、 そうであるような気さえする。夕凪のごときものは、身の回りに、 無数にあるのだ。風が急に止む瞬間、 ぼくは言葉すら失ってしまいそうになる。
かつて、 マキさんがポロンと弾いたピアノから流れてきたのはダニー・ ボーイ。渋谷さんが演奏を終えた時、 この小さな店にも夕凪が訪れた。
☆恵本俊文(えもと・としふみ 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)
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