2013年12月11日水曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~小笠原 かほる ~


句集『無量』の一句鑑賞

小笠原かほる
 
五十嵐秀彦氏句集『無量』を読む
 
「無神論」より


 大寒や人は柩を空に置く    五十嵐秀彦


私が5歳の時に父方の祖父が亡くなった。
それは私にとって記憶に刻まれる初めての葬儀の参列となった。
極寒の旭川。姉妹兄弟合わせて15人の父の生家は身内だけでも
ごった返す人だった。辺り一面積雪で真っ白な家の正面には
ギラギラと飾りの付いた花輪がどんどん置かれていく。
まだ小さい私は珍しくてしばらくそれを見上げていた。
出棺の日も吹雪。父達がゆっくり大事そうに柩を持ち上げ戸外に運んで
玄関を出た瞬間、一瞬雪が止みその先に田舎の空が広がって
そこに向かって柩が掲げられている様にみえたのだ。
この一句は半世紀前のあの日の事を思い出させてくれた。
そしてこの時父の涙を初めて見た。一瞬父ではない誰かに
感じたのは父親を失った子供の顔をした父だったからと今なら思う
どの季節でも命の終わりを見送る辛さは同じであるが
真冬の別れは心の底をも凍るように寂しさが重く押し寄せてくる様
気がするのだ。


☆小笠原かほる(おがさわら・かほる 俳句集団【itak】幹事)

0 件のコメント:

コメントを投稿