2016年8月7日日曜日

俳句集団【itak】第26回句会評⑤ (橋本喜夫)

俳句集団【itak】第26回句会評⑤

  2016年7月9日
 
橋本喜夫(雪華、銀化)


 刃先より鱗飛び散る大暑かな    遠藤ゆき子
 
高点句であり、写生も効いている。出刃を用いて、鮮魚を処理している。刺身その他夏料理の下ごしらえなのかもしれない。刃先からきらきらと鱗が飛び散る。包丁を扱う料理人のひたいにも汗がにじむ。おりから今日は大暑である。7月23日あたりのひかりの感覚が鱗飛び散るさまで十全に表現できているように思う。
 
 
 人体の何処にも傷半夏雨       西村 栄一
 
人間も四半世紀以上生きてくると体のどこかには傷ができてくる。むしろ傷のない人を探す方が難しいであろう。中七までの措辞が俳句として十分に成立しているので、あとは座五の季語がどれだけ生きているか ということになる。半夏生のころ(7月2日ころ)降る雨は長雨、大雨になると言われてあまり縁起のいいものでもない。また雨が一日中降る日は体のあちこち古傷が痛むものである。ということで100点満点とは言えないが、十分に合格点の季語であると私は思う。
 
 
 金魚玉自伝最後の恋人欄       青山 酔鳴
 
金魚玉の置いてある夏の一室で作者は自叙伝を書いている、または読んでいるとしよう。人生の紆余曲折、成功も失敗も読み進めていくと最後に出てきたのが恋人欄でそのひとの一生の恋の遍歴が年代順に整理されて記載されていた。というとても可笑しなシュールな景。このような句は「自伝最後の恋人欄」で完結しているので、あとは邪魔しない季語を添え物のようにつければよろしい。と有季定型がちがちの、季語重視の〇人協会には叱られそうな、いや、どやされるようなそんな俳句。
 
 
 草むしり軍手の左手のミミズ    福井たんぽぽ
 
草むしり という季語よりもこの句のコアはミミズ、ただし漢字でかくと季重りにもなるし、カタカナにしたのであろう。観念や概念ではなくて、モノ(みみず)だけを提出しているのが成功している。また中七から下五にかけての句またがりもなかなか定型感を崩しつつ、定型を守っている、グラグラ揺れながらも耐震装置つきの俳句になっている。軍手、左手の手重なりなんかはお構いなし。 

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