2020年2月26日水曜日

第46回イベント抄録 「出張!サブカル句会」

 イタックの第46回例会が2019年11月9日に札幌市内の道立文学館で開かれ、俳人五十嵐秀彦さんと俳優小林エレキさん、漫画家田島ハルさんの3人による北海道方言の俳句をめぐるトーク「出張!サブカル句会」が行われました。事前に応募された159作品から選ばれた23作品について、道産子ネイティブの3人が楽しく解説。会場も大いに盛り上がりました。ざっくり紹介します。

秀彦 今日は事前の投稿をもとに、おしゃべりする句会です。
エレキ 俳優やっている小林エレキです。ハルさんと某ラジオ局の某番組でパーソナリティやらせてもらってます。俳句はずぶの素人。ノリで選びました。
ハル イタック参加させてもらっているのですが、いつも隅っこでぼーっとしているので、みなさんの目の前に立っているのは不思議な感じ。両脇に父と相方が座っている。それも不思議な気持ち。句を肴に、3人で楽しくやりたい。
秀彦 ラジオ番組というのは、HBCラジオの深夜番組「サブカルキック」。ゲストをよんで、よく分からない話を毎週しています。土曜日の深夜。
エレキ 最初は2時、押し出されて今は朝の4時からやってます。五十嵐先生のことは、愛情を持って「秀彦」と呼んでます。
ハル 会ったときから秀彦と言ってます。
秀彦 今日は北海道弁だけでなく、道外の方言でもオッケーとしたところ道外からも少し来ました。159句も集まって驚きました。面白かった。
エレキ 北海道弁って内地から来た方が持ってきたものが多い。調べたらこっち側だよっていうのもありました。

●全体の印象。人気の北海道弁
ハル 固有名詞の方言、ザンギ、ダイコン抜きとかもありました。
エレキ ダイコン抜きの遊び知っている人いる?
秀彦 意外と少ない。
エレキ 年代によるのかな。足を引っ張る遊びで抜けたら負け。
秀彦 「たくらんけ」も出てきた。職場で「たぐらんけ」と言われたこともある。(「たわけもの」というような意味だけど)訳してもしょうがない。たふらんけというところもあるみたい。これじゃなきゃ伝わらないというのもある。「もちょこい」(くすぐったい)とかね。
ハル 「あずましい」も「落ち着く」と訳されるけど、ちょっと違う。
エレキ サビオも北海道弁なんですね。商品名。九州のほうの会社の製品。カットバンと同じ。九州の会社が頑張ったんでしょうね。北海道で広まった。
秀彦 ネットで調べたら、これは方言だと出てた。カットバンの代表がサビオという地域が、北海道と全国で何カ所かある。千葉でもサビオだったらしい。「やきべん」(即席麺。マルちゃん「やきそば弁当」)もありましたが、僕としては北海道という印象はなかった。
エレキ やきべんって省略するのは最近かな。最近のイメージ。
ハル セコマも。正式名称になった。
秀彦 セコマは全国化した。上の世代が言っていたこともたくさんあった。「がおる」とか。ほおがこける、ぐったりしてるという意味。とても面白かった。今回は159句から、3人で10句ずつ選んだ。

●3人の選句
【7番】秋の鞦韆闇が「押ささる」と言ふ(秀彦、ハル○)
秀彦 典型的な北海道弁の活用。「なんとかさる」。これつけると面白いニュアンスが出てくる。「食べらさる」という広告がある。「巻かさる」とか。「さる」がつくと責任逃れのイメージ。スイッチが「押ささる」とか。
エレキ パンツとか見らさる。
秀彦 自分が見る訳ではない。「さる」はたくさんあったけど、これは句としてマジで作った感じ。俳句としても。
ハル 句としてかっこいい。完成度が高い。脱力、ふわっとした感じ。闇とのギャップがいいなと思った。

【11番】干柿のはぶててS字フックかな(岡山)(秀彦○)
エレキ 岡山弁?
秀彦 「はぶてて」。調べました。成長するって意味でなかったかな。干し柿って伸びるの? 形かわって、S字フックのようだと。形が歪んだと。「はぶてて」が面白いと思った一句。
【13番】 前足に手袋を履きヒトとなる(秀彦、ハル○)
ハル 手袋をはく、普通に言いますよね。
エレキ 道外ははめるっていうらしいですね。でも、履くですよね、みなさん。僕も好きな句だった。
ハル 人でなかったんかいって。お前はだれだ? 犬用の手袋もある。滑るから、寒冷地では犬に靴を履かせる。そのこととも取れる。犬が人になった。
秀彦 そうも読めるし、人間が手袋をするときに、自分の手を足の一つと思ったのかなと。自分が手袋はめたときに人なんだと気付く感じがした。

【14番】鮞(はららご)のおにぎりばくろ海老マヨと(エレキ○)
エレキ かわいい言葉。交換する。ばくる系の句はけっこうありましたしたが、コレはかわいい。庶民的な感覚で選びました。筋子とエビマヨ、交換するには対等ではない。軽く脅迫してる。筋子のおにぎりをよこせと。上下関係がしっかりしているのでは。
ハル 人間関係見え隠れする深い句。
秀彦 学生時代、方言だと思わないで使う方言だよね。道外では100%通じないです。でも、方言ステータスもあって、東京では方言がもてはやされることもある。

【20番】俺ゲッパJBゲロッパ狂咲(兵庫)(秀彦○)
ハル ラップみたい。
秀彦 北海道の人ではない。兵庫の人。ゲッパ、言わなくなった。知らない? ゲッパは「ビリ」という意味。運動会で一番最後、ゲッパって言われる。
会場 「ゲレッパ」って言ってました。
秀彦 げれっぱは、げっぱの活用形。げっぱ、げれっぱ、ゲロッパと活用する。
エレキ ファンキーですね。
ハル ジェームス・ブラウンが俳句になる。季語がいいですよね。上手。

【31番】寒蟬の遠くかしがるゴッホの絵(ハル○)
ハル 「かしがる」が方言。愛媛の人だけど、愛媛の方言なのかな? 北海道? 傾くの意味。
秀彦 北海道でものすごい使います。標準語だと思っていた。「かしげる」はある。「かしがる」はない。「かしがさる」が、「かしがる」になったのではないか。「さ」が抜けて、音便化になると。
エレキ 押ささるの「さる」?
ハル この絵が傾いてるの、おれのせいじゃねーしって感じですね。俳句として好きと思って取りました。

【34番】わかさいもって芋入ってないっしょ(愛媛)(3人とも○)
秀彦 ストレートな句。つい取ってしまった。
エレキ 勢いがある。「そうだね」と言わさる感じが好き。
ハル 道民の常識。芋の食感を出すために、白あんに細い昆布を入れている。
秀彦 愛媛の人だけど、北海道への望郷の句と思った。泣けてくるな。ないっしょ、「しょ」というのは消えることがないと思う。
会場 「内緒」とかけているのでは?
3人 イントネーションはちょっと違うけどね。
エレキ 役者やってて気を付けてはいるけど、北海道は「椅子」「コーヒー」もイントネーションが微妙に違う。NHKのナレーションの仕事もするのですが、NHKはイントネーションに厳しいです。

【39番】木枯の身にじぇんこ無しべんこふる(ハル○)
ハル 取ってるけど分からなかった。
エレキ 「ジェンコ」は分かった、「べんこ」は調べた。ゼニコのこと。飲み代ないという感じかな。
秀彦 「ジェンコねえんだわ」は、よく言った。品がないほうかな。ジェンコは「ない」と続くのが北海道弁。ある時はじぇんことは言わない。べんこふるは分からなった。おべっか使うという意味だって。結構知っている人いますね。ご機嫌を取るとか。

【43番】こわいって言うから檸檬煮ておいて(エレキ○)
エレキ 「こわい」って面白いな。疲れただけど、けだるい感じもある。優しい感じがある。ばあちゃんが良く言っていた。
秀彦 「こわい」と「疲れた」は語感が違う。肌で分かる。東北でも言うはず。
ハル クエン酸とってねってこと。

【47番】したっけさなまら亀虫いるだべや(エレキ、秀彦○)
エレキ やけくそ加減がすてきだなーと思いました。カメムシの脅威、錯乱している感じ。
秀彦 「したっけ」「なまら」「だべや」。ここまでコテコテに入れてくるのは驚いちゃった。全部分かるよね。したっけは後の世代ではないかな。俺の印象では子供のころは使っていなかった。「したっけ」って別れるじゃない。高校生くらいから使っていた。何だそれはと思った。函館では昔からあいさつであったと。
会場 「したらね」って言ってました。

【58番】こんぼほりしてデレッキで叩(はた)かれる(ハル、秀彦○)
秀彦 デレッキジョンバも石炭ストーブがらみですよね。懐かしい。ごんぼほり分かります? だだこねる。子供叱るとき。デレッキでたたいたら、死ぬよね。今だと虐待ですね。デレッキの語源はよく分からない。英語、オランダ語らしいけど、はっきりしないみたい。石炭ストーブが入ったときになまって。私の親は、なぜかロシア語といっていた。噓を教えられて信じていた。

【61番】七五三めんこにじぇんこあげらさる(ハル○)
ハル おこづかいを、かわいい子に「あげらさる」
エレキ 冬が厳しい分、自分にやさしく。

【67番】つっぺした内縁の妻食うおでん(エレキ○)
エレキ 鼻が止まらない時にティッシュとか詰めるのが「つっぺ」
ハル 長くしてしまうと、汁物とか食べる時についたりしてね。
秀彦 内縁の妻、すごいよね。詩的喚起力がある。おふざけ企画に乗じて真剣な句を出している。上五変えれば、深刻な句になる。
エレキ エロいですよね。
ハル ちょっとかわいいかも。

【76番】愛犬もかててゲロリや冬晴るる(ハル○)
ハル 「ゲロリ」はググっても出なくて…。ゲタスケートのこと? 「かてて」は仲間に入れる。
秀彦 雪スケート? 知らないでしょ。ゲロリがどんな道具が分からないけど。ゲタの裏側に竹などをつけて滑る「ゲロリ」。
会場 小樽ではあった。ゲタスキーとか。
秀彦 雪スケートと言っていた。道のつるつるしたところ、ゲタに歯がついている。明治から昭和初期に使われたって。
会場 「がんじゃスケート」
ハル 勉強になりましたね。

【83番】重ね着のゴムたごまっていずぃいずぃ(エレキ、ハル○)
エレキ 「いずい」って独特。違和感みたいのが「いずい」。たごまる「だごまさる」とも言うよね。靴下だごまさるって。「い」が小さいのもかわいい。
秀彦 「たごまる」も標準語と思っていた。

【95番】冷蔵庫開けて羆はおっちゃんこ(秀彦○)
秀彦 実際にヒグマってやるんだよね。冷蔵庫を前足で開けて、食べる。知床などである。「おっちゃんこ」は方言なんですね。おっちゃんがおっちゃんこ。

【97番】なんもにはなんもとかえすねこじゃらし(秀彦○)
秀彦 「なんもさ」って言わない? 優しいよね。親身になってくれている。「大丈夫」よりも「なんもさ」のほうがいい。なくしたくない言葉。
エレキ 「なんも。泊まっていけばいいっしょ」みたいに使う。
ハル ぶっきらぼうな感じがするけど温かい言葉。

【103番】新米のなまら美味くて食べらさる!(エレキ○)
エレキ 本当にその通りだなって思って。ビックリマークに勢いがあって選ばさりましたね。
秀彦 なまら使わなくなってない?
エレキ 若い人は使わなくなっている。祖父祖母がいない家庭は、方言あまり言わなくなる。
秀彦 なまら美味いは、いいな。こんな感じだよね。

【112番】ありつたけサビオを壁に貼る夜寒(千葉)(エレキ○)
エレキ サビオを壁に張るのかって。台風に備えているのかなとも思ったけど、太刀打ちできないよなって。不思議な俳句と思って。
秀彦 千葉なんだよね。ネットで調べて使ったのかな。かなりの人、上手だよね。シュールだし、怖いよね。すごい句だよね。

【129番】だらせんのこったらべっこ秋じめり(ハル○)
ハル 「こったらべっこ」ピンと来ないので調べました。ほんの少し。あまり言わない?
エレキ おばあちゃんに「ご飯、こたっらべっこ残して。はんかくさい」って言われた。
ハル そういえば「お米あめるしょ(いたむでしょ)」っていうのも。
エレキ 「こったらもん」って言いますよね。こったらべっこ、妖怪の名前みたい。

【134番】デレキよりジョンバで叩くほうが好き(エレキ、秀彦○)
エレキ 「ジョンバ」は「シャベル」だよね。SM的な要素かなと。性癖的な。それかなと思って、面白いと思って。
秀彦 叩かれたら大変だよね。石炭をすくうスコップだよね。プラスチックのスコップってあるけど。
会場 木で作ったものがジョンバ。
秀彦 僕は鉄のイメージだった。

【143番】 銀杏並木いいふりこきとそれ以外(秀彦○)
秀彦 いいふりこき、いい言葉だよね。決定的な言葉はないよね。「こき」がいい。感情が込められている。俳句のテクとしても良くできている。

【152番】いなびかり妻をばくれと唆す(エレキ○)
エレキ たまにばくるのもいいかなと。妻を「ばくる」ってなかなかですよね。
ハル 「唆(そそのか)す」相手がいるんですね。
秀彦 稲に米を作らせるために「稲つるみ」から。稲の妻とかもいう、これも結構な俳人が作っていると思う。





















秀彦 これでぜんぶ終わりですね。1位決めてもしょうがないので、締めくくって、終わります。方言はなかなか俳句では使えない。(決まりがあるわけじゃないけど)通じないことが多いので。そのためか、今回はそのうさをはらすように、やまほど方言が来ました。面白かった。
エレキ 北海道で暮らしていても、いまさら知らないものとか、意味を取り違えているとか。深いなと堪能しました。

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