俳句集団【itak】第30回句会評⑤
2017年3月11日
橋本喜夫(雪華、銀化)
冴返る転宅を告ぐ青インク 恵本俊文
句会でこれもコメントされていたが、たんなる転居や引っ越しでない、不穏な感覚が、「転宅」という措辞と「青インク」から伝わるのだ。これが冴えかえるという季語と相俟って十全に伝わる句なのだ。
街は雪を愛して木々のかをるなり 瀬名杏香
十+八の破調なのであるが「街は雪を愛して」とたっぷりと叙しているので、あまり破調感がないのだ。この措辞が旭川、札幌などの雪国の街を想像させて、故郷を愛する作者の表白も垣間見ることができる。そして「木々のかおりるなり」の措辞が雪解けのこの季節の感覚を十分に伝えている。
友のくれし歳時記春に栞あり 黒紗
まず俳句に歳時記を詠むことが珍しい。はじめて俳句を作ったらしい。この句も十+八で破調なのだが、友のくれし歳時記 とたっぷりと叙しているのであまり違和感なく読める。違和感があるとしたら 歳時記を詠んでいることである。すべて読み終わったあと読者が感じることは、なるほど作者は友人から「歳時記を貰って、その歳時記には春の項目に栞が挿してあった」ということである。ここからこれからの季節感、俳句をはじめて詠むこころの躍動感や、友人との関係が温かく伝わるのである。
卒業の朝へ靴紐結びけり 栗山麻衣
卒業の朝へ の「へ」が良い。靴紐を結ぶという行為はやはり、きちんと新しくはじめること、襟を正すことに 近い行為だと思う。もちろん身だしなみの一つでもある。卒業後の生き方にも通じるはずである。
だくだくと山も崩さん雪解水 鍛冶美波
雪解水の勢いが「だくだく」というオノマトペによって見えてくるので、このオノマトペは成功している。読者が立ち止まるのは山もの「も」である。なぜ「を」でないのか?、「も」にした理由は?と考えてみる。湧き出て来る雪解水によって、山崩れをおこすばかりでなく、長い冬期間に生じた氷の山や、雪の山、はたまた人間の固くなったこころの山も崩すという意味なのであろう。
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