俳句集団【itak】第30回句会評①
2017年3月11日
橋本喜夫(雪華、銀化)
薄皮を残したやうな弥生かな 大原智也
この句の中七までの措辞は、作者の自然環境つまり東京に住んでいるか、北海道かでその味わいが違ってくる。「薄皮を残したような」という措辞はまだ、うすうすと前の季節を曳づっている感覚が言い表されている、だから作者が東京住まいならここは「如月」とか「きぬさらぎ」がベターなのだと思う。そして北海道在住だからこそ本来なら陽暦4月の季語である、弥生が生きてくる。この句は「北海道の弥生」という意味でとてもよい季語選択だと思う。
懐の源氏名名刺納税期 藤原文珍
句会のときもコメントしたのだが、この句は面白い。ススキノとかで働いているおねーさんが、源氏名名刺を懐に忍ばせながら、きちんと確定申告の列に並んでいる景がほほえましい。毎年わたしも並ぶのであるが、税金をとられるために、おとなしく整列する国民は日本人以外にはないのではないだろうか。私は並びながら毎年、日本人でよかったと微苦笑しながらも思うのだ。
野焼き火の何処へ生まれる何処へ死ぬ 太田量波
句会のときも言ったが、中七以下の措辞が魅力的なので、やはり季語なのだと思う。この季語で私は良いと思うのだが、「野焼き火」という措辞が美しくないと思う。「野火」とするか「遠山火」、「遠野火」とか他の措辞もあるはずだ。
雪解風白樺百幹にひかり 藤森美千子
この句は句会のときもコメントされていたが、「白樺百幹」の措辞にオリジナルがあり、コアである。中七~座五にかけての句またがりの破調感がとても成功していると思う。雪解風とのマッチングの問題で句の優劣が決まるのであろうが、私は悪くない組み合わせと思った。「風」の季語はやはり無難である。ただし完璧な取り合わせではないと思う。
冬の月いまならきつと言えるはず 恵本俊文
この句も中七以下のフレーズが魅力ある。まるで「根岸の里のわびずまい」のように。逆に言うとなんにでもつく完成されたフレーズ(万能なフレーズ)ともいえるので、そこが問題なのだと思う。思えば楸邨の「鰯雲ひとに言ふべきことならず」の中七以下もそんな感じなのだが、ひとえに「鰯雲」との取り合わせが素晴らしくて名句と言われている。この句を採れなかったひとはやはり「冬の月」に物足りなさを感じたはずだ。
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