句集『無量』の一句鑑賞 ~安藤 由起~
句集『無量』の一句鑑賞
安藤 由起
その細き身をその旗として夏野 五十嵐秀彦
リフレイン構造の句である。<窓ぬぐふ人惜しみ年惜しむとき> <靴底の雪剝がし黙剝がしけり> <幻影となり父の声雪の声>など、本句集の中にも多く登場する。句またがりが生み出す独特のリズムが私は好きだ。
一見すると軽妙だが、しみじみとした情趣を感じずにはいられない。一面の夏草が生い茂っている。誰に恥じるでもなく、自らを旗として。その命の絶唱を対岸から見つめている作者は、何を思うだろうか。堂々とした自然とは対照的に、人間は小さく姑息である。その業の深さに懸命に向き合おうとしているように私には思える。
作者とは、一昨年に句づくりを再開して以来、たびたび句座をともにさせていただいている。句歴の浅い者、あるいは異端めいた作風でもあたたかく迎え入れる寛容さは、すなわち俳句の持つ懐深さとイコールであるといつも感じている。
☆安藤由起(あんどう・ゆき 俳句集団【itak】幹事 群青同人)
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