俳句集団【itak】第20回イベント
『NO MUSIC,NO HAIKU』
2015年7月11日 札幌・道立文学館
俳句集団【itak】は7月11日、北海道新聞社の恵本俊文さんと大原智也さんによるトークショー『NO MUSIC,NO HAIKU』を札幌の道立文学館(中央区中島公園)で開きました。今回の抄録はトークの内容をほぼそのまま書き起こしました。イベント中に紹介された曲目も拾い出しました。どうぞお楽しみください。
恵本(E)、大原(O):北海道新聞の恵本と大原です。よろしくお願いします。
O:前回は夏井いつきさんで大盛り上がりでしたが、今回は打って変わってゆるゆると…。
E:そう、スピーカーなんか用意してきましたが、音楽を聴きながらやればしゃべる時間も少なくなるかと。
O:昨日も打ち合わせするつもりが、何を間違ったのか、二人で加山雄三さんのコンサートへ一緒に行ったんですよ。
E:78歳とか。本当に元気で、短いのも含めて四十数曲も歌って。
O:「夜空の星」とか生で初めて聴いて感動しましたね、本当に。
E:14歳の時に初めて曲を作ったって加山さんはおっしゃってて。かれこれ六十数年間歌い続けているそうで。で、僕らは俳句を始めて何年?
O:ちょっと言えないくらい(短い)。
E:僕も加山さんに比べればまったくね。
O:そんな僕らが、皆さんの前で俳句と音楽について語るなんて…。
E:まったくね、語る権利もないというか、不安というか。
O:まあ、でもあのライブのあと加山さんに握手していただいて。
E:そう、終わったあと、楽屋に行って挨拶だけさせていただいて。でっかい手で。
O:励まされたような気になりました。明日頑張ってくれって(笑)。まあ、そういうことも含めて北海道新聞の文化部っていうのは、音楽の取材をしているんです。実は、音楽がメーンの担当は二人なんです。二人しかいないとも言えますけど。それはクラシック担当とクラシック以外の担当。
E:ざっくりしてるね、分け方が(笑)。クラシック担当がいるのがすごいけどね。
O:ぼくはクラシック以外の音楽担当です。クラシック担当だったら何も書けないと思います。
E:僕は両方やってました。クラシックは1年くらい。札幌のPMFの担当もしてて、偉い指揮者の人のインタビューへ帝国ホテルに行きました。そこのグランドピアノで練習するみたいですね。それ以外では、ビッグネームでいうと忌野清志郎さんにインタビューできたのは嬉しかったですね。
O:うらやましい。実はクラシック以外の担当分野は、演歌、ロック、フォーク、ジャズ、ヒップホップ…全部担当なんです。けっこう音楽好きの人が担当になんとなく配属されることが多いんですけど、僕も昨年末に配属される前から、恵本さんと音楽つながりで、一緒にライブに行ったりして。
E:その記者によって書く記事もだいぶ変わってきちゃうところがありますけど。
O:そうなんですよね。さっき清志郎さんと言ってましたけど、僕の方で言えば、矢沢永吉さんですか。オールタイムベストⅡというアルバムを出したので、とある札幌のラジオ局で取材させていただきました。実はじっくり聴いたことがなくて、事前に猛勉強して、ドキドキしながら行ったんですけど、案の定見透かされて冷や汗が止まりませんでした(笑)。
E:それでも、すごいボリュームの記事だったね、200行くらい? 「ホワイ」とか「一般ピープル」とか言ってたね。
O:ええ、ずっと「矢沢節」全開でした。
E:あと最近だと美輪さん?
O:そうですね、美輪明宏さん。東京のご自宅に伺いまして、見た瞬間から後光がさしているように見えましたね。
E:紫色の?
O:当然そうです(笑)。ご自宅にある家具なども、ものすごく素敵で。でも80歳になられたのに、インタビューは明快でしたし、声もオクターブが変わってないそうで。僕が行ったときはアカペラで喜納昌吉さんの「花」をアカペラで歌って頂いて。
E:すごいね。本題から脱線してるから、仕事についてはこれくらいで。
▽浜田真理子とitak
O:みなさんは浜田真理子さんはご存じですか。
E:知らない人のほうが多いかもね。島根県松江市に住んでるんですけど、シンガー・ソングライターで今年50歳。孫もいらっしゃるという。この方を僕や同僚が札幌に呼んだんですね。その時に大原くんに手伝ってもらったのが、そもそも彼が俳句を始めるきっかけになったんだよね。
O:そうなんです。その時は文化部と関係なかったんですが、ビデオ記録係として参加しまして。打ち上げの席で、【itak】幹事の某女性に「あんた面白いから俳句やりなさい」と言われて参加しました。こんな一番前でしゃべるとは思ってませんでしたが。
E:想像もつかなかったよね。
O:でも、今から考えると、浜田真理子さんの歌もどこか俳句的な曲がけっこうあると思うんですよね。
E:そうですか。じゃ、聴いてみましょう。
浜田真理子「のこされし者のうた」
https://www.youtube.com/watch?v=zt1sLd5vPu0
O:生で聴いた時のことを思い出しますね。
E:そうですね、このとき、年10回くらい生で聴いたかな。九州まで行って。
O:へー、ちなみに恵本さんが主催した時には時計台ホールという場所でやりましたね。
E:大雨だったね。雨の音も、偶然にも曲のひとつのような気がして。
O:なるほど。そういう意味では浜田さんから俳句に入ったのは偶然のようで必然のような気がして、というのは言い過ぎですか?
E:いいこと言うね。なんか、ね。
▽俳句は実は4拍子
O:今度はちょっと技術的な面というか音楽的な切り口から行きましょうか。
E:技術的なことというわけじゃないけど。俳句って定型は五七五ですよね。で、俳句って何拍子なんだろうって考えた人がいまして。
O:へー。
E:五七五だけど五拍子でも七拍子でもなく、実は「フォービート」、四拍子っていうんですよね。何でか? スライドを見ていていただいてる譜面では、八分音符と休符があるんですけど、有名な「古池や…」とかであわせると…。なるほど四拍子なんですね。
O:これはだれが言っている説ですか?
E:日本の俳句をちゃんとやっている人が考えたようですね。実は音楽家も同じことを考えてて。ジャズピアニストの山下洋輔さんもが「やっぱり俳句は4拍子だ」とおっしゃってて。「HAIKU」って曲もあるんです。
山下洋輔「HAIKU」
https://www.youtube.com/watch?v=VRSwlFpUqbQ
E:まあ、こんな感じ。たしかに四拍子ですよね。
O:後からも出てきますが、ジャズと俳句って相性がいいものなんですかね。
E:ジャズと俳句はよく対比されることがあって。なぜかっていうと、例えば引いたり足したり、変化を導いたり、余分な者を切り取ったりするのがジャズ。俳句は引くことのほうが多いですが同じじゃないかと。さらに定型は五七五だったりするけど、字余りのように、ずらすのが気持ち良かったりするかなと。思い込みかもしれませんが。アドリブっていうのも、俳句を鑑賞する人の立ち位置もそう。どんな風に感じるか。近しいものだと思ったりしますね。
O:他にも音楽的に見た俳句との関係性ってあるんですかね? 例えば日本の歌とか、西洋の歌とか。
E:たとえば五七調とか七五調の歌とかかな。
O:日本の小唄、端唄とか、都々逸とか。その後になると明治大正演歌とか。そういうものですね。まあ、五七調、七五調の話は僕らよりはるかに詳しい方がたくさんいらっしゃって墓穴掘りそうですから、まずは相撲甚句でも聴いてみましょうか。
相撲甚句「鶴と亀」
https://www.youtube.com/watch?v=3qD36j9Zxrs
E:オチまでいかず、途中までですみません。
O:いろいろ調べると、相撲取りはかならず相撲教習所ってところに行くそうですが、相撲甚句は必修らしいですよ。
E:ということは横綱になった人もみんなやっているっていう。
O:最近の人はやっているっていう。実はこの間、演歌の増位山大志郎さんにインタビューしまして。「そんな夕子にほれました」の人。現役時代にシングルが130万枚売れたこともある人ですけど、新曲もほれぼれする美声でしたね。
E:七五調ってどうですか? よく五七調は重厚で、七五調は軽妙と言われることがあるんですけど。七五調では江戸の狂歌とか俗謡とか、明治大正演歌から流行歌や歌謡曲に受け継がれてきましたよね。「酒は涙かため息か」とか「赤城の子守唄」「ここに幸あり」とか…。
O:森昌子の「せんせい」とかもそうですね。昌子さんにもお会いしましたけど気さくな人で。息子さんは今すごく人気のあるロックバンドのボーカルですね。
E:なるほど、それじゃ、次はどどいつでも。
柳家三亀松「たべて寝て」
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%9F%E3%81%B9%E3%81%A6%E5%AF%9D%E3%81%A6/dp/B00H2DRJUM
E:短いですね(笑)
O:今のは柳家三亀松さん。洒脱で、遊び過ぎがたたって死んだという。芸人さんとしてはすごく素敵な人ですよね。
E:憧れるよね。これも七五で洒脱なほうなのかな。
O:そうですね。
▽アーティストの俳句に関する発言
次はアーティストが俳句について発言していることがあって、ビックな人も多いですよね。
●「俳句は僕が読んだ詩の形式の中で最も美しいものだ」ジョン・レノン
E:ご存じ、ジョン・レノンですね。ジョンは俳句の芭蕉に影響を受けたと言われています。特にビートルズの「レット・イット・ビー」というアルバムの「アクロス・ザ・ユニバース」とがそう言われるけど、実は違うらしい。実は禅の影響なんですって。ヨーコを通じて知ったらしい。
O:そういえば昨日も加山雄三さんがコンサートでジョンの話してましたね。
E:そうだったね。1966年にビートルズが来たんでけど、加山さんはホテルに行って一緒に写真を撮った。ビートルズの4人と写真を撮った単独アーティストって加山さんしかいないと言っていたね。
O:その時に加山さんは、ビートルズにすき焼きを焼いて振るまったとか。
E:そしたらジョンは床に正座して食べていたと言ってたね。
O:テーブルだったけど、いすをどかして正座で食べていて、「それはマナー違反」だって加山さんが言ったらジョンが「今は日本の気分を味わってるからこれでいいんだ」って最後までそうしていたとか(笑)。
E:結局その後、ヨーコと結婚して日本とつながっちゃうのは偶然かもしれないけどね。そんなジョンが1971年に上記の発言をしているんだよね。ビートルズが解散して、ソロアルバムを出したころかな? 「ジョンの魂」の中から「LOVE」聴いてみましょうかね。
ジョンレノン「LOVE」
https://www.youtube.com/watch?v=3G-qAKmACDE
E:CMで流れたりして有名だけど、いたってシンプルですね。訳すると「愛は真実 真実は愛…」
O:英語でも俳句のリズムというか。
E:そうかもしれない。本当にシンプルな歌詞。この後は普通に戻っていくんですけどね。
O:この頃、一番俳句にはまってたんですかね。
E:そうかもしれないね。ヨーコと一緒によく日本に来ているし、絵もそう。この頃はシンプルで俳画みたいに簡単に書いているしね。ある時、ジョンがヨーコに「(絵師である)白隠のどこがいいの」と聞くと、「西洋は後でどんどん手を加えて完璧な絵を作ろうとするけど、白隠は一度描いたあとは二度となぞらないの」と答えたそう。このあとぱぱっと書くようになったと言われているね。ジョンは美術学校出身で、もともと絵は上手なんだけど、あえてシンプルな風になっていったんだね。ちなみに日本の人ではだれかいる?
●サカナクション 山口一郎「目指すのは俳句」
O:日本でいうと、札幌出身で「サカナクション」という紅白にも出た人気バンドがあります。小樽出身のボーカル山口一郎という人は、若いころから俳句にも親しんでいたとか。俳句に直接影響されたとはいえませんが、かけてみましょう。
サカナクション「アルクアラウンド」
https://www.youtube.com/watch?v=vS6wzjpCvec
O:という感じなんですけど。彼は小樽に住んでいた幼いころから、お父さんに連れられて古本をハコ買いしては読んでいたという文学少年だったらしいですね。この人は「俳句は多くの言葉から短い言葉を選んで、読んだ人がいろんな情景を思い浮かべる。曲の歌詞も同じだと思うんです」という話をしていて、「あくまでもそれは僕のルールだけど、それをやってAメロ、Bメロ、サビと行くことで、歌詞に情感を持たせることができるようになる」と言っているんですよね。自由律で雑誌に俳句も読んでいたりするんですよね。それは後で。
E:なるほど。じゃ次は、アグスティン・ペレイラ・ルセーナというアルゼンチンのギタリストです。
●アグスティン・ペレイラ・ルセーナ「日本の俳句から音楽が聞こえる」
E:1948年生まれ。有名な人で、日本の若い人にも人気があります。この人が「節度を要する日本の文化は総体的に素晴らしい。俳句はさまざまなイメージを与えてくれ、そこから音楽が聞こえることもあります」なんてことも言ってまして。俳句をもとに作った曲を聴いてもらおうと思います。
アグスティン・ペレイラ・ルセーナ「Puertos de Alternativa」
※音源なし
E:と、こんな感じ。
O:いいですね、気持ち良くなって、眠たくなる(笑)。でも、俳句に影響されたっていうのは分かる気がしますね。
E:日本で言えば友部さんとかかな。
O:そうですね、「一本道」などで有名なフォーク歌手ですね。俳句というより、詩人といったほうがいいかも。これも後で出てきますが、友部さんも句会に参加されているとか。その他でいうと、僕が最近取材した大江千里さん。
●大江千里「俳句みたいな音楽、それが僕の理想形」
E:千里さんというと「十人十色」とか「格好悪いふられ方」とか。
O:そうです、ポップス歌手として80年代に一世を風靡した方ですけど、2008年にジャズへ転向するためNYの音楽学校で勉強して12年に再デビューしました。今年出たアルバム「Collective Scribble」というアルバムに付属したDVDの中で言っています。ちょっと聴いてみましょうか。
大江千里「AKIUTA」
https://www.youtube.com/watch?v=OCuyturXGW0
E:通常のジャズですね。
O:そうですね、ちょっとメロディー強いかと思うんですけど、違うのはピアノの大江千里さんと、サックス、ベースのトリオというところ。
E:普通のトリオと違うね。
O:そうなんです。普通はドラム、ピアノ、ベースですけど、狙いがあるらしくて。実は大江さんはアルバムを2枚目、3枚目と出すのにしたがって、本場のジャズミュージシャンと同じことをしていても勝てないと思ったらしいんです。作曲時は、歌とメロディーが一緒に出てくる方で、歌を抜いた上でのメロディーや季節感が日本人である彼独自の武器であり、ドラムを抜くことも音に隙間ができ、ゆとりが生まれるというようなこともおっしゃってまして。
E:無理して俳句につなげようとしてるでしょ。
O:いやいや。実際にそういうことをうちのインタビューで言ってましたって。
▽俳句を連想させるアーティストの発言
O:俳句のことを言ってる訳ではないけど、俳句を連想させるようなことをおっしゃってる方もけっこういらっしゃって。
岡林信康「十行ある歌詞をどうやって一行に凝縮できるだろうか」
O:フォークの神様ですね。実はこの方もつい最近取材させていただきましたけど、著書でテレビで若いミュージシャンを見たり聴いたりすると、まず言葉で引っかかると書いてまして。「十行ある歌詞をどうやって一行に凝縮できるだろうか。ひょっとしたらひと言でいえるかもしれないという作業をするんだけど、今の歌詞はたたき台のところで満足しているように思う、これは歌詞じゃなくてメモだ」と。こういうことは大物じゃないと言えませんね。
岡林信康「友よ」
https://www.youtube.com/watch?v=g86HPBb1mUU
O:これは初期の曲で、団塊の世代は強く反応される方も多いですね。実は岡林さんは、吉岡治さんという「さざんかの宿」を作った作詞家とも仕事をされていて。吉岡さんはもともと詩人で、なかなか売れなかった。売れた時に「書ききらないということが大事。自分では「これくらいでいいのかな」っていうくらいが、演歌の歌詞としてはちょうどいい」と言ってたと書いてあって。この後に岡林さんが「歌詞っていうのはでたらめなもので、隙間がいっぱいないとメロディーをつける意味がなくなる。聞き手がイマジネーションを働かし、状況を描いて好き勝手に楽しむことができなくなる」って書いているんです。これはまさに僕が、俳句で他の人に批評してもらった時に面白いと感じることとかぶるんですよね。
E:なるほど、語りつくしちゃうとダメってことね。
O:そうです。でも実は、いろんなアーティストを取材していると、「隙間」とか「俳句みたいな」という発言はけっこうでてくるというか。
E:たとえばどんな人?
シシド・カフカ「完璧なものを作ってもしょうがない。聴く人に隙間を作ることが大事」※複数のミュージシャンの先輩に言われたこと
O:この人は歌う女性ドラマーで、モデルや女優もされているんですが、新しいアルバムで元ザ・ブルーハーツの甲本ヒロトさんや人気の斉藤和義さんなんかと共演した時に、複数の先輩に言われたんですって。こういう話は演歌の人やロックの人なんかにインタビューしたときも近いことを言われて。言葉や音の「隙間」とか、「俳句みたいな」という表現をされる人がけっこういるんですよね。ロック・ポップスの人は、シンプルな歌詞か音の隙間のこと、演歌の方は季節感をあらわそうとするときに「俳句のような」という言葉を使うことがあります。本人は俳句を詠んでいない人が多いから、感覚で言ってるだけかもしれませんが、けっこう引っかかって、記事で使おうかなと思う時もあります。
▽アーティストの俳句作品
O:さっき少し出てきましたが、アーティストで俳句を詠んでいる人もいらっしゃって。代表的な方を
三波春夫
・逝く空に桜の花があれば佳し
・れんげ摘む遠いあの日のお下げ髪
・今日も無事独りもの書く春の夜
・広島の秋天井に雲一つ
・木の芽和えかめば故里ほろ苦く
・如月の空の碧さの強きかな
・高々と蟬三界の経を読む
E:俳句と関係ないけど、少しかけますか。
三波春夫「東京五輪音頭」
(※音源なし)
O:良いですけど、全く俳句と関係ありませんね(笑)。俳句がらみのことはマネージャーだった娘さんが書いた本に載っているんですが、俳号は北桃子といって最初の句は時世の句。この句は実際どうなのか、秀彦さんに聴いてみましょうか。
E:我々は分からないですからね。
五十嵐秀彦(以下i):三波さんが俳句を作ってたのは僕は知らなかったですけれど、これだけの句を作られたとすれば、けっこう知られていたんじゃないかなという気がします。文人俳句というよりは俳句プロパーに近い句がありますね。「れんげ摘む~」みたいなちょっと甘い句もあるけれど、最後の「高々と~」とかを詠むあたりは、これは非常に優れていると思います。
O:次は友部正人さん(俳号・豆腐屋)の句です。仙台のブックカフェの句会で作られたようですね。
・幼子の手となかよしになる時雨かな
E:ちょっと字余り。「かな」がいらないのではと言う話にもなったんですけど。ちなみに友部さんが最初に作ったのは2006年くらいらしくて。
・校庭に学生服のボブ・ディラン
E:季語ないんですけど、僕は好きですね。友部さんは「増殖する俳句歳時記」の今井聖さんの出した「ライク・ア・ローリングストーン」という本に書評を寄せた時もボブディランのことを書いてました。
O:そのほか、先ほどのサカナクションというバンドの山口一郎さんが詩の本「ユリイカ」の現代俳句の新しい波という特集で詠んだ自由律の句があります。
・黒猫の影暗くとも体ほど
・惜春の影暗くともこの夜ほど
・夕方に入り込んで来た蜘蛛を助けたんだ
・脱ぎ捨てた服のたわみも 昨日のまま
・子供の手を握りしめてもいいかい
O:どうですか、五十嵐さん?
i:この方は曲も詞も書かれているんですよね? 非常に詩的な感じがします。「夕方に~」なんて非常にいいですよ。これを自由律にしてしまうか、さらに五七五にしていくのかはその人のアプローチの仕方だと思いますけど、やっぱり俳句でも歌であっても詩の発想というか心は同じなんじゃないかなと、非常に感じますね。
O:そう聞くと、どんどん良い句に見えてきました(笑)。
E:「子供の~」というのも、なんかすごいキますね。
O:もともと寺山修司とか好きだったらしいですけど。
E:たしかにそんな感じもちょっとするね。
▽音楽を詠み込んだ俳句
O:音楽を詠み込んだ俳句もいろいろあるみたいですね。
・もしジャズが止めば凩ばかりの夜(寺山修司)
・ピアノ鳴りあなた聖なる冬木と日(西東三鬼)
・BLUESのころの話や水中花(坊城俊樹)
・冷房車ハードロックが耳の中(後藤章)
・しやぼん玉平均律の震へかな(柏柳明子)
・苗代に満つ有線のビートルズ(今井聖)
・ああ立春の腰のあたりがプレスリー(佐山哲郎)・
・エルビスのもみあげ長し春燈(松本てふこ)
・天井扇ゆっくりリリー・マルレーン(花谷清)
・別れ雪もつとカンタービレでよい(五十嵐秀彦)
・雛市やゆふべ疾風にジヤズのせて(石橋秀野)
・ほうかごピアノ五月の風(渥美清)
E:これは手持ちのものから拾ってみました。けっこう好きな句が多いですね。
O:きっとまだまだありますよね。
E:一生懸命探さないで、これだけ出てきたので、もっともっとありますね。音楽も俳句の題材になりやすいののかなと。
O:ネットでは、忌日として認められてないけど、亡くなったミュージシャンの名前をよく見かけますね。レノン忌とか忌野忌とか。なんとなく伝わるものがあるような…。
E:レノン忌って結構あるかもしれないね。
▽俳句を題材にした音楽
K:これは我らが牛後さんですけれども、俳句ソングス」というCD付きの句集。牛後さんや夏井さんらの句に他の人が曲をつけて歌ったものです。いろいろ面白いので聴いてみましょう。
O:ほかの人の句も入っているんですけど、牛後さんの句集を音楽プロデューサーの方が見て。作ることを決めたとどこかで聞いたような気がします。
牛を飼ふ 鈴木牛後
(※音源なし)
初蝶は牛舎の隅の暗きより
かげろふに濡れて仔牛の生まれ来る
野に出でて空気を吸ふという遊び
牛乳に溶く春光の五千粒
牛啼いて誰も応へぬ大夏野
まだ誰も踏んでゐない俺の夏草
畜生と言はれて牛の眼の涼し
牛糞を吸うて汚れぬ夏の蝶
秋澄みて牛に涙のやうなもの
ぐりりと踏む牛の落とせし鬼胡桃
牛の眼の空を湛へて牧閉す
満月や牛の数だけある怖れ
冬の日を貯へシラカンバは白し
乳搾る明けのオリオンやはらかく
鎖鳴る音ばかりなり深雪晴
冬来れば冬のかほなる牛を飼ふ
E:きちんと曲になっています。よく聴くと句と句のつながりが微妙な部分もありますが…。
O:もうちょっと朴訥とした方が歌うとよりはまるのでは?
E:たとえば牛後さん本人とかね。爽やかなのもいいんだけど。
O:今度は本人に歌ってもらうとか。牛後さん、すみません…。次はフォーク歌手の友川かずきさんが自由律の俳人にささげた歌ですね。フォークが多いですけど、趣味に走っているわけでは…。
E:いやいや、趣味でしょ。
O:まあ、そういう所もありますけど。住宅さんは1989年に亡くなり、2000年代に再評価された方ですね。「若さとはこんなに寂しい春なのか」などの句に友川さんがショックを受けて作った曲と言われています。
友川かずき「顕信の一撃」
https://www.youtube.com/watch?v=wfa373mRhg8
O:もともと友川さんは「生きてるって言ってみろ」とかを秋田なまりの歌詞で歌い書ける人なんですが、すごくシンパシーを感じたらしくて。「これまで私は好きにまかせて山頭火などを詠んでいた。別に俳句をしている訳ではないが、顕信の句を読んだ衝撃は日に日に強くなるばかりだ」と言っています。俳句自体を題材やテーマにするのは分かるんですが、俳人自体を歌にするのはよっぽど影響を受けたということなんですかね。
E:あんまりないよね。
O:最後に。完全にネタではあるんですが、パフューム。アイドルとアーティストの間のテクノユニットで、こういう曲を歌っていますね。
パフューム「575」
https://www.youtube.com/watch?v=iVJBDLJRbVE
E:五七五っぽい。まあ言葉遊びですけどね。
O:メンバーが初めてラップに挑戦した曲らしいんですけど、俳人がいきなり聴いたら「これ何なんだ」ってびっくりしますよね。軽い気持ちでプロデューサーの中田ヤスタカが作ったんでしょうけど、シングルのB面ですね。
E:勇気あるけどね。こういうのは
O:若い人はどうとらえたんですかね。
E:その他に在日ファンクは俳句入りなので聴いてみましょうか。
在日ファンク「俳句<interlude>」
(※音源なし)
O:なるほど。在日ファンクの曲では、おとなしいんじゃないですか?
E:そうだね。昔の芸人さんが出してた曲っぽいよね。左とん平とか松鶴家千とせとかね。そのほかにもこんな曲があります。
*Anna Maria Jopec「俳句」
*ジョン・ケージ「7つの俳句」
*バレエ「月に寄せる七つの俳句」
O:海外にHAIKUの名前がついたグループがいくつかあるんですけど。テクノ系とかアンビエントとかですね。
E:通じるものがあるのかな。
▽俳句を感じる音楽とは~独断と偏見で~
O:最後は自由にやりましょう。二人が俳句を感じたものを交互にかけたいと思います。先ほどジョン・レノンの「LOVE」という曲を聴いてもらいましたが、日本語だとどうでしょう。
松岡計井子「LOVE」
(※音源なし)
O:もう十分ですね(笑)。さっきと比べてもらうと分かると思うんですけど、ジョン・レノンのほうが英語なのに俳句に近く感じるのは、歌詞も含めて、強く俳句を意識していたからなのでは。
E:日本語に置き換えた瞬間、別物になっちゃったね…。じゃ、僕の番で。僕は札幌東高の卒業生ですが、先輩にジャズドラマーの小山彰太さんという方がいて。この方が俳句じゃないんですけど、短歌を意識したドラムソロがあります。聴いてもらいましょう。
小山彰太(曲名不明)
(※音源なし)
E:こういうドラムソロを1時間半くらいやってるライブもあります。
O:なるほど…。次は僕2曲かけさせてください。
くるり「春風」
https://www.youtube.com/watch?v=BjXY0E126fs
はっぴいえんど「風をあつめて」
https://www.youtube.com/watch?v=hUQSJvzCAsc
O:くるりのは2000年、はっぴいえんどは70年代。2曲はとても似ているけど、どちらもすごく良い曲。季節を感じるような曲と歌詞です。作った細野晴臣と岸田繁も仲がよくて一緒にライブするくらいで。模倣というより、あえて本歌取りなのではと思いました。
E:では、次の曲に行きましょう。
セロニアス・モンク「ミステリー・オーソ-」
https://www.youtube.com/watch?v=7te1syRAYO0
E:極めてシンプルですけど、一音一音にとっても深い意味がこもっている気がするので、とっても俳句的だな、と。
O:ジャズは親和性高いですね。じゃ、僕はかまやつさんの曲を。
かまやつひろし「やつらの足音のバラード」
https://www.youtube.com/watch?v=b5j_Odp4OBM
E:「ギャートルズ」ですね
O:そうですね、これは作詞のマンガ家、園山俊二さんの歌詞の世界観が広いというか、そういうところに俳句を感じまして。
E:なるほど。私はこれで。メロディーもあるけど好きな曲です。
キースジャレット「マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ」
https://www.youtube.com/watch?v=PxCea54SGZY
E:これはイギリスの歌曲をピアノ・ソロで弾いていて、とても素敵ですね。
O:やっぱジャズやインストが一番俳句と合うんですかね。
E:そうだね、歌詞があると想像の範囲を狭めるというか、はっきりしてしまうところがあるね。
O:あと、歌詞があっても洋楽とか、カフェ系とか、隙間があって歌詞もシンプルなほうが近いものがあるのでしょうかね。
E:先ほどかけたジョン・レノンの「LOVE」にしても、シンプル過ぎるほどシンプル。そぎ落として、そぎ落として、というのが音楽も俳句もいいのかもしれないね。
O:選句用紙がまわって来ました。そろそろ終わりです。結構早かったですね、みなさんが楽しんだかどうかは別として(笑)
E:我々は楽しめましたね(笑)
O:振り返ってみてどうですか、俳句と音楽の関係で思うことって。
E:さっき大原が言ってたね。なんだっけ。
O:個人的にですけど、俳句も音楽も鑑賞する側に委ねるというというところが…。
E:強制しないっていうね。
O:間違った解釈でも。
E:聞き手が受け取ったとおりでいいということね。
O:歌詞とか間違えててもアリなのかもと、いろいろ聴いてみて感じましたね。
E:まあ、俳句にしても文学全般でもシンプルで分かりやすいものがいいのかもしれないね。わかりやすくても隙があって解釈の余地がある。そういうのがいいと思うね。
O:きちっと決まってるものも、格好いいと思いますけど、そういう自由さがどちらにも大事だと思いましたね。
E:そうだね、強く感じたね。
O:この、65点くらいのまとめ方でいいですか?
E:いや、そんなに高くないって(笑)。はっきり結論めいたものはないので、この辺で終わらせていただきます。
2人:いろいろありがとうございました。
(END)
☆抄録 大原智也(おおはら・ともや、俳句集団【itak】幹事・北舟句会)
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