2014年6月15日日曜日

瀬戸優理子 『結婚指環』 鑑賞 ~鈴木 牛後~



恋愛感情とはある種の脳内物質の働きで、それは3、4年ほどしか続かないものらしい。子どもを男女が協力して育てるには、それくらいの年月があればよく、その後は新しいパートナーを見つけて、より多様な遺伝子を残すのが生物としては有利だとういう理由とのこと。以上はネットで見つけた雑学。
このような説明から自分の心の動きを説明することは難しい。人間は、生物学的にのみ生きているわけではないから。


 芹噛んで透きとおる声賢治読む


向ふもじっと見てゐるぞ
清楚なたましひたゞそのもの(宮澤賢治「ある恋」より)


男女の関係に憧れだけを感じていた日々。
声もからだもどんなにか透きとおっていたことだろう。



 桃の日の少女返事す揺りかごに


揺りかごに眠る赤子はあの日の自分だ。何も知らずに眠るやすらぎ。でも、もう何か自分の中の変化を感じている。代々受け継がれてきた雛人形が、それをそっと耳打ちする。


 皿沈む水のゆらめき春愁い


皿を洗うという日常と、張った水の表面に浮かぶ心の揺れ。幸せでないとはもちろん言わないが、外の光は否応なく反射して眼のなかに飛び込んでくる。


夏の浜すとんと脱げる服を着て


ショーのように一枚ずつ脱いでゆくのではない。それではとても耐えられない。すとんと服を脱ぐというファンタジー。だから、その想像を自分に許すのだ。


 夜濯ぎの結婚指輪泡立ちぬ


泡まみれの結婚指輪。見えないほどの昼の汚れをつけた指輪も、夜濯ぎのたびにまたきれいになる。結婚生活とはそんなものなのかもしれない。


 鬼灯や全身染まるまで黙秘


鬼灯の官能が心臓に灯る夜。鼓動を相手に伝えるための黙秘。あかあかと自分を解放する日もまた。


 粉雪のように米舞う中華鍋


一転してやって来る日常。しかし、ヒロインとしての自分を捨てたわけではない。粉雪の冷たさと中華鍋の熱さ。その両方を兼ね備えて、結婚生活は続いてゆく。



☆鈴木牛後(すずき・ぎゅうご 俳句集団【itak】幹事 藍生)


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