2013年12月27日金曜日

句集『無量』の一句鑑賞 ~今田 かをり~


句集『無量』の一句鑑賞

今田 かをり

 
 
 うららかに行方知れずとなりにけり        五十嵐秀彦


 秀彦さんに初めて会った時、それは第一回itakの会場でだったが、どこか無頼の風が吹いていた。さらに言えば、集中に〈沫雪やわれらと呼ぶに遅すぎて〉とあるが、秀彦さんより一世代前の団塊の世代に繫がっていくような匂いがした。権威におもねらない、既成のものの見方をまずは疑ってみる、というような生き方は、〈独活膾隆明定本詩集哉〉〈自転車に青空積んで修司の忌〉といった嗜好にも現れている。ただし、こういう人にとって、この世は生き難い。〈なあ友よこの世だつて存外寒い〉、たしかに、このうつし世は存外寒いのである。
 ところで、掲句であるが、この句を読んだ時、はっとした。「行方知れず」になったのは、他の誰でもない詠者だと読んだのである。芥川龍之介は、死のかなり前に作った〈水涕や鼻の先だけ暮れのこる〉を、辞世の句として選んだが、掲句は、詠者の願望ではあるまいか。西行〈願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ〉の、俳句バージョンの気がしてならないのである。なぜなら、この世からの消え方として、「うららかに行方知れず」以上の消え方があるだろうか。
 五十嵐秀彦はすでに辞世の句を用意している。その辞世の句を懐に、軽くて薄い、そして「存外寒い」この世を颯爽と渡っていくなんて、本当に素敵である。


☆今田 かをり(いまだ・かをり 俳句集団【itak】幹事 銀化)

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